なぜ、中国は核弾頭配備を早急に進めるのか? この非常事態に元陸将・小川清史氏が緊急投稿。ロシア・ウクライナ戦争に学んだ中国の戦略を分析、日本は何をすべきかを提言する。

戦争ではない「特別軍事作戦」で起きたこと

2022年2月24日から始まったロシア・ウクライナ戦争、すでに1年4か月が経過しているが、戦争終結の見通しは未だ不透明な状況であると言わざるを得ない。

ロシア・ウクライナ戦争は、きわめて政治的な戦争である。ロシアのプーチン大統領にとっては、これは戦争ではなく、あくまでも「特別軍事作戦」であり、その目的は“ウクライナの非軍事化”と“ロシア系住民の虐殺の阻止”であると一方的に宣言している。

ウクライナは、2014年以降にロシアによって占領支配された地域の奪還を目指し、現在(2023年6月12日時点)では反転攻勢を行っているところである。米国をはじめNATO諸国のウクライナへの軍事物資などの支援は、あくまでもウクライナ領内での領土奪回作戦のための兵器などの供与に留まっている。

西側諸国による兵器の供与にあたっては、ロシアの出方を見つつ、特別軍事作戦がウクライナ領土外へと拡大して、大規模戦争に発展しないようにコントロールしている。NATO諸国がウクライナに対して、軍隊の直接投入以外の軍事的な支援を公然と行っているものの、戦闘地域はウクライナ領土内に限定されているのである。

仮に、NATO諸国が早期に長射程精密誘導の火砲・弾薬、戦車、戦闘機などを供与していれば、ロシア領土内も反撃地域として、ロシア軍の後方支援部隊、増援部隊、指揮所、兵站施設を制圧し、反撃行動はさらに有利に展開できた可能性は大いにある。

そうなれば、ロシア側も、戦術核兵器を使用する可能性は高まるとともに、戦争としてロシア国民に対して大規模動員に踏み切るなど、本格的に戦争へと舵を切る可能性も高まっただろう。

しかしながら、米国をはじめとするNATO諸国は、ロシアに本格的戦争への移行を決心させないように、段階的かつ小刻みな兵器供与を行ってきた。結果的に、ほとんどの戦闘行為はウクライナ領土内、それも地上戦闘はロシアが侵略占領している地域に限定されている。

モスクワ周辺でのドローン攻撃や、ウクライナ全域の都市部や電力設備に対するミサイル攻撃などはあったものの、本格的な戦闘はウクライナ領土内のロシア占領地域内に限定されていると評価できよう。

ウクライナ侵攻で学んだ中国のシナリオは?

この状況から、中国は何を学習しているか。台湾への軍事侵攻の成功率を高めるには、米軍の直接介入の阻止が最も重視するところである。それにあわせて、自衛隊の活動の阻止である。現実にそうした米軍やNATO諸国軍による直接的な武力介入のない戦争が、ウクライナでは行われているのである。

つまりは、兵器供与などの支援・訓練支援に留まっている――。この状況こそが、中国にとって望ましいシナリオだ。

しかし、こうした行為はロシアにとっての敵対行為として、戦争であれば軍事力行使も可能となる状況ではあるが、ロシアの戦いは「特別軍事作戦」であるため、NATO諸国に対して軍事的攻撃を加えることなく、声明による非難を行うのみである。

これは、大東亜戦争になる前の日華事変など、“戦争ではない”との名目で戦ったために、援蒋ルートを使った米英の支援が行われても、戦争加入とは明確に言えなかったのと同様である。

▲ミサイルが撃ち込まれたキーウの住宅ビル 写真:Kyivcity.gov.ua / Wikimedia Commons

なぜ、このような政治的な戦争状態が継続しているのか。ロシアによる核恫喝が功を奏しているのである。米国とロシアの核抑止が効いた状態での、地域限定の熱い戦争なのである。ロシアの核兵器が、米国に対して十分な核抑止を効かしているからこそ、戦域拡大なく、地域限定の戦闘が継続しているのである。