2022年2月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって1年​。国連によると市民の死者は少なくとも8400人を超え、ウクライナ難民は800万人を超えている。現在もロシアは東部ドネツク州に対して攻撃を続けており、ウクライナも徹底抗戦をしている状況だ。

日本での報道は昨年に比べると減っているが、ロシアとウクライナの戦争は今も続いている。そこで民間の志願兵として戦っているウクライナ人に、現地の状況を聞いてみた。

▲前線を戦うウクライナ軍の兵士たち

ウクライナの戦闘最前線から日本への手紙

ロシアのウクライナ侵攻が始まり、2年目の春を迎えた。現在31歳、キーフ出身のセルゲイさん(現在ウクライナ軍所属のため、苗字を公表することは禁止されている)は、民間人の志願兵としてオデーサというウクライナ南部の港町の地方軍に参加した。

この戦争が始まる前は、戦争モノのテレビゲームのコンピューターグラフィックアーティストとして働いていた。オデーサで、妻と二人の子どもと一緒に高層住宅ビルの19階に住んでいた。コロナ禍のあと、多くの人が在宅勤務をしており、この機会を利用して生まれて初めてキーフを離れて暮らしていた。

2022年2月25日早朝。爆発音で目が覚めた。軍関連の仕事をしている友人にテキストを送り「戦争が始まったのか」と聞いた。友人からは「緊急事態発生の連絡を受けている」との答えが返ってきた。

2014年のクリミア半島侵攻の頃からニュースに注目しており、早かれ遅かれこういう事態になるだろうと予想はできていた。子どもの頃からロシア語を流暢に話すことができるが、ロシアを近隣の兄弟などと思うことはないという、セルゲイさん。

ウクライナ語とロシア語を流暢に話すセルゲイさんだが、英語はあまり得意ではない。セルゲイさんと筆者の会話を英語で通訳してくれたのは、キーフ在住のスヴィアトスラヴ・イヴァネンコさんだ。

2022年2月にロシアがウクライナを侵攻するまでは、世界中を旅していたイヴァネンコさん。祖国の危機を知り、国を守るために帰ってきた。民間の志願兵として前線で戦う申し込みをしたが、身長170cmで60kgという小柄な体格もあり、前線で戦うことはできなかった。

前線で使われる対戦車向けの持ち運び可能なミサイルの重さが約20kg。このミサイルを持って、1日に何キロも歩く必要があるのだから、イヴァネンコさんが前線に行けなかったのは仕方がない。

イヴァネンコさんの昔からの友人であるセルゲイさんは、190cmで95kgと、ウクライナ人のなかでも体格のいいタイプ。しかも、アマチュアながら格闘技の経験もあり、前線派遣への合格を貰っている。20kgのミサイルを持って1日に何キロも歩けるだけの体格とスタミナを要している。

▲セルゲイさんがキーフの地方軍に参加していた頃、パトロール中に撮影した写真

ミサイルを運ぶだけではなく、前線では土豪を掘るなどの肉体労働もある。最前線で戦いながらも、ローテーションでキーフの実家に帰ってくることもあるセルゲイさん。イヴァネンコさんとも、地元で束の間の休息を楽しむこともあるそうだ。

前線に行くことができないイヴァネンコさんは、現在ウクライナ政府でサイバーセキュリティ関係の仕事をしている。もちろん、仕事の詳細内容を明かすことはできないが、何かしらの形でウクライナ軍に貢献する仕事ができて光栄だという。

冬のあいだは、ロシア軍が発電所を攻撃していたこともあり、停電や暖房が切れることがよくあったそうだ。だが、春を迎える頃には停電がなくなり、キーフの中心部ではカフェやレストラン、映画館やデパートなどが通常営業を行っているという。

ただ、戦時中だということもあり、夜の11時から翌朝5時までは外出禁止令が敷かれている。2022年2月のロシア軍侵攻時から暫くは禁酒令が敷かれていたが、段階的に禁酒令は解除され、今では営業時間内であればお酒も飲めるそうだ。

キーフ中心地のバーでイヴァネンコさんと杯を交わしたセルゲイさんは、再び前線へと戻っていった。「この戦争が終わったら、一度でいいから日本を訪ねてみたい」というのは、セルゲイさんの正直な気持ちだという。前線で一緒に戦う同士たちも「日本を訪れるのが夢」だと言っているそうだ。

「ウクライナに栄光を!」と誰かが叫ぶと、「英雄たちに栄光を!」いう言葉が返ってくる現在のウクライナ。いつの日か、英雄たちに勝利の日がやってくるだろう。

▲いつの日か、英雄たちに勝利の日がやってくるだろう