中国が1000発の核弾頭を保有する日

中国は、2022年時点で350発、令和四年版防衛白書によると、2027年までに最大700発の運搬可能な核弾頭を保有し、2030年までに少なくとも1,000発の核弾頭を保有することを企図しているとの指摘もある。

SIPRI2023年版では、中国は1年間で350発から410発に核弾頭を増やしている。今後、中国の核弾頭生産能力に関しては、約100発/年の増強能力を有しているとの評価もある。

しかしながら、米国と核パリティ(均衡)を達成するには、このペースでは10年以上かかる計算となる。2027年台湾危機説が言われているときに、核のバランスを見ると米中では明らかに米国が圧倒的に有利である。

▲中国の核弾頭数増産予測 

米国の核弾頭数は、2022年版SIPRIを参照すると、配備核弾頭数が1,744発、貯蔵核弾頭数は1,954発であり、足すと約3,700発となる。中国が追いつける時期は、配備核弾頭数が互角となるのが2037年頃となり、配備+貯蔵の核弾頭数には2050年代後半となろう。

すなわち、中国の台湾侵攻は2027年前後までに実行されるだろう、という予測は多いが、核弾頭数を比較すると、米国の水準までいかないことには台湾への軍事侵攻は難しいと言えるだろう。

▲世界の核兵器保有数(2022年)

ロシア・ウクライナ戦争のように、“当事者以外は戦場に存在しない”という政治的戦争こそが、中国にとって望ましい台湾侵攻時の状況であろう。

そのためには、米国を核抑止できる唯一の核大国であるロシアを頼みの綱とするのである。台湾有事には、ロシアによって米国に対して核恫喝を要求する。この目的のためであれば、中国はロシアに接近する価値が大いにある。ロシアにとっても、中国の仲介によりウクライナ戦争の終結、もしくは有利に戦争を継続する可能性もある。

▲プーチン大統領と習近平国家主席(2022年) 写真:kremlin.ru / Wikimedia Commons 

中国・ロシア・北朝鮮と向きあう最悪のシナリオ

しかし、このシナリオは日本にとって最悪の2正面作戦となる。ロシアの対米核抑止が機能するためには、オホーツク海を聖域化してSLBMを潜行させ、第2攻撃を準備させる必要がある。それは冷戦期におけるロシアの脅威に極めて近い状況である。

そうなると、自衛隊は北海道地域、特に北部北海道防衛が極めて重要となる。その態勢を維持しつつ、中国の台湾侵攻に備えて南西シフトをしなければならない。

「台湾有事は日本の有事」であることの意味とは、中国による台湾への侵攻に伴い、日本南西地域までが戦域となり、中国軍による軍事行動(武力侵攻)が見積もられる。逆に考えると「日本の防衛、特に南西地域防衛は、台湾防衛」なのである。しかし、米軍の軍事力の直接介入がない場合には、南西諸島および同領海の防衛も反撃も困難になろう。

さらに中国は、念を入れて北朝鮮の特殊部隊を使っての在日米軍基地攻撃、日本の中枢機能の麻痺・破壊を実行することも考えられる。

ロシア・ウクライナ戦争が、ロシアによる特別軍事作戦のまま核兵器が使用されないで終結することが、中国にとっての最大のメリットとなろう。

上記で述べた一連のシナリオは、未だ起きていない仮想世界である。しかし、こうしたウクライナ正面の戦争だけをみると、ウクライナにとって望ましい戦争終結が、日本にとっては3正面の脅威顕在化と、それに同調する諸国によってもたらされる最悪のシナリオへと進む可能性も考えられるのである。

ロシア・中国・北朝鮮、そしてそれらに同調する諸国による秩序変更を許さないためにも、ウクライナはリスク覚悟でNATO諸国の武器支援などを得て、早期の反転攻勢に打って出ているのである。

ウクライナに対して応援と感謝をしつつ、日本は最大限の支援をするべきである。さらには、昨年末に発出された3文書で述べている抜本的な防衛力の強化を、より早期に確実に実現することである。 

安全保障とは、まだ起きていない仮想世界を予測して、それに対して手を打つことである。そして、仮想世界が実現しないようにするための“目に見えない戦い”が安全保障であり、最も価値ある国土防衛なのである。