思いを伝えるためスーツ姿で企業訪問へ

日本では前例のない完全無料の音楽フェス。その実現に意気込む亀田だが、すでに出演者やプログラムが決まりつつあった状況での開催見送りなどもあって、周囲の反応は肯定的なものばかりではなかったという。

「“約束が違う”と言って離れていった方もいましたし、実際に当時は資金のあてもなかったですね。親しい仲間からも“今までみたいに音楽をやれなくなるよ……”とか“普通のやり方に切り替えたら…?”と言われましたし、多くの方から“前例がないからやめたほうがいい”という声もいただきました。

それでも、ニューヨークでできているのに、日本でできないわけはないだろうという思いが消えることはなくて。僕が経験したような、子どもたちやみんなが最高の音楽に触れて楽しい時間を過ごす、そんな音楽祭作りを諦めようとは思いませんでした」

1年後の日比谷音楽祭の実現に向けて、プロジェクトチームを再編成。亀田自身が200社以上の企業に出向いて、協賛を募ったという。

「僕がそれまでの2年に及ぶ準備期間で感じたのは、“スポンサーの方に僕の思いが伝わっていないな”ということでした。なので、これまでほとんど着たことがなかったスーツを新調し、ネクタイを結んで、自分たちで作った企画書を持ってさまざまな企業へ営業に伺いました。就職活動すらしたことがない僕にとっては、会社を訪問してプレゼンすることは未知なる経験でした(笑)。

“次世代の音楽家やクリエイター、そして未来の子どもたちのために必ずプラスになるから……”と訴えかけると、これまで1社も決まらなかったのが嘘のように扉がどんどん開いていって。当時はSDGsという言葉が広まりつつあって、さまざまな企業がサスティナブルな活動のあり方を探っていた時期だったこともあって、多くの企業から“日比谷音楽祭への協賛が、企業の社会貢献に対する一つの答えになる”と言って協賛していただけたのは、とてもうれしかったですね」

亀田自身による「草の根活動」によって、協賛資金は1億円を突破。「フリーでボーダレス、誰もが楽しめる」ことをコンセプトに1年遅れで開催された「日比谷音楽祭 2019」は、斬新なコンセプトや豪華なゲストによる共演も話題となり、大盛況のまま幕を下ろした。

▲スーツにネクタイなんてそれまでしたことなかったよと笑う

土壇場を乗り越えた亀田誠治が得たもの

「もう1年あれば、絶対に素晴らしいものを作ります」。さまざまな土壇場を乗り越えて、日比谷音楽祭を公約通りに開催した亀田にとって、この成功体験から多くの収穫があったという。

「瞬間的に受けるダメージで、自分が持っている信念を曲げてはいけないと思いました。たしかに、その場に応じて臨機応変な対応が求められることもありますが、1〜2年かけて成熟した答えが出てくることもある。さまざまな土壇場を経験して、僕自身が気づかされたことでもありました。

もうひとつが、自分が信念を貫けば応援してくれる仲間が増えていく、ということです。離れていってしまった方もいましたが、素晴らしい仲間と出会うことができたのは、僕にとっても大きな財産だったと思います」

紆余曲折を乗り越えて、自身が思い描いていた新しい形の音楽祭を実現させた亀田。「音楽の新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭」をテーマに掲げた日比谷音楽祭の開催は、今年で5年目となる。

「台風など天候の影響もありましたが、無事に開催することができてよかった。まだまだ挑戦し続けたいし、みんなと一緒に作り上げていきたいと思ってますので、そのためにもクラウドファンディングへのご支援、よろしくお願いします」

そう言って、しっかりと実行委員長としてのコメントをする亀田。今年開催された「日比谷音楽祭 2023」は、2019年の第1回目以来となる観客の声出しや、飲食ブースの出店が解禁されるなど、日比谷公園に笑顔が咲き乱れた2日間となった。

▲「日比谷音楽祭 2023」開会宣言をする亀田誠治実行委員長 写真:日比谷音楽祭実行委員会