ニューヨークのセントラルパークでの体験から日比谷音楽祭を開催し、クラウドファンディングと協賛金、助成金によって運営される「無料のフェス」という新たな音楽の楽しみ方を提示した亀田誠治。今年で5年目の開催となったが、ここ数年間はコロナ禍の影響もあり、音楽プロデューサーとして活動する彼にとって、さまざまな困難に直面した時期でもあった。

4年ぶりにコロナ禍の制約を受けないなかでのイベントを終えたばかりの亀田に、どうやって「クランチ=土壇場」を乗り越えてきたのか、そして日比谷音楽祭にかける思いを語ってもらった。

▲俺のクランチ 第29回(後編)-亀田誠治- 写真:日比谷音楽祭実行委員会

目指すのは多様な価値観が認め合う社会

クラウドファンディング・協賛金・助成金による運営で参加費は無料、という前例のない形で開催される日比谷音楽祭には、亀田が抱く哲学や目指す世界観も強く反映されている。

「好きなアーティストのステージを見るために、有料で参加する音楽フェスも、もちろん魅力的ですが、僕自身は無料にすることで、たくさんの方に参加してもらい、さまざまな化学反応の起こる音楽フェスを作り上げていきたいと思っているんです」

今年の音楽祭では、飲食店の立ち並ぶエリアの隣で、太鼓やキーボード、普段では触れる機会の少ない楽器などに触れられるブースや、さまざまなワークショップが展開されるなど、亀田がニューヨークで見た光景が東京で再現されているようにも感じられた。

「異なるジャンルのゲストが共演するHibiya Dream Sessionのように、これまでにはなかった新たな出会いによって、さまざまな価値観を認め合い、それらが調和していく。そうしたことで、多様性を認め合う社会が広がっていくのではないか、という思いも込めているんです。おかげさまで、多くの人に日比谷音楽祭のことを知っていただけた。それは僕にとっても大きな収穫となりました」

「日比谷音楽祭 2023」には、石川さゆり・桜井和寿・木村カエラ・Tani Yuukiなど、幅広い世代から支持を集める日本のトップミュージシャンたちが集まった。さまざまな試練を乗り越えてきたからこそ、開催することができた喜びも大きかったことだろう。

▲桜井和寿 写真:日比谷音楽祭実行委員会

土壇場で心がけた「次につながるトライ」

綿密な準備による充実したコンテンツが話題を集め、音楽フェスの新たな形を提唱した日比谷音楽祭だったが、2020年初頭の「コロナ禍」襲来以降は、さまざまな形の障壁が立ちはだかった。

イベントやライブが「不要不急」と言われた2020年は、会場での開催を断念。布袋寅泰や中村正人(DREAMS COME TRUE)といった、ゆかりのあるアーティストがスタジオやリモートでゲスト出演したラジオプログラムとYouTube生配信の連動企画で、亀田は音楽の魅力を発信した。続く2021年も有観客での開催を取りやめ、客席に誰もいない会場からオンラインでの生配信となった。

「これまでも、さまざまな土壇場を経験してきましたが、そのなかで心がけていたのは“次に向けたトライ”をすることでした。2021年に行ったオンライン配信のノウハウや、コロナ禍でさまざまな制限を乗り越えた経験は、今の日比谷音楽祭にも生かされていますし、これからの日比谷音楽祭にも役立っていくと思うんです」

これまでの音楽活動や、この音楽祭の運営などで幾多の土壇場を経験してきた亀田だが、土壇場を乗り越えるために大切にしていることがあるという。

「僕が土壇場で踏ん張っていると、どこかから“頑張れ”と声をかけてくれて、力を貸してくれる人が必ず出てきてくれるんです。なので僕自身は、そういった状況を隠すことはせずに、自分が土壇場にいる姿を見てもらいたいと思っていて。日比谷音楽祭に関しても、そのスタンスで乗り越えてきたところがありました。

亀田さんは余裕を持って順調に進めているんだろうな、と思われている方もいらっしゃると思うんですけど、実際は大変な状況の連続だったんですよ(笑)。自分が置かれた状況をさらけ出すことで、周りが助けてくれました。本当に優秀なんですよ、この音楽祭の運営スタッフは。だから、安心している部分もあるんですけどね」

▲石川さゆり 写真:日比谷音楽祭実行委員会