漫才コンビ・リップグリップの岩永圭吾と倉田紘顕は、二人とも京都大学を卒業している。10代の頃からお笑いに向き合ってきた彼らだが、小さい頃から本に親しんできたという共通点もある。最近では、読んだ本をプレゼンするPodcast『リップグリップの出典』など、お笑い以外の場所でも活躍の幅を広げている。ニュースクランチ編集部が、芸人として今後の展望や、オススメの本をインタビューで聞いた。

「本といえばリップグリップ」が理想

▲気になる本を手に取っていく

――本を紹介するときに説明の仕方や本の選び方など、気をつけていることはありますか?

岩永 何を紹介するにも共通していて、うまく伝える人っていくらでもいますけど、僕は体験談として話して、聞き手にそれを体験してもらいたいって気持ちがありますね。

僕はディストピア小説を海外から日本のものまで、かなり読んでいるほうだと思うんですけど、どの本もストーリーの前半は舞台設定の説明ばかりなので、めちゃくちゃつまらないんですよ。『1984年』(著:ジョージ・オーウェル、訳:高橋和久/ハヤカワepi文庫)は「イギリスで一番読まれていない本」って認定されているんです。話題だから買うけど、設定が難しくて最後まで読んでない本っていう意味なんです。

それこそ、僕はディストピア小説を読むときに「耐えながら読んでいく」「だるくて手が止まる」体験をめちゃくちゃしました。最近は映像コンテンツもあるから、すぐに読み切れない本って「ちょっとだるいかも」という人が多いと思うんです。そのなかで読み進めていく工夫だったり、読んでいるときの自分の感情を大事にして伝えていますね。

▲本の紹介に対するこだわりを話す岩永

倉田 YouTubeチャンネル『新書といっしょ』では毎週2冊紹介していて、そのうちの1冊は自分でも手に負えなさそうなものをあえてチョイスして、読んでみてわかったところまで説明しています。なんとなく興味がある分野を学びたい人もいるだろうし、そういう人と肌感が合うだろうと思って。

もう1冊は、売れている本やジャケットのポップさで選んでいることが多いです。あと「新書というジャンルを紹介したい」というのは大きくて、“新書ってココがいいよね”っていうのを自分自身でもわかりたいですね。

岩永 俺へのプレゼンには成功してるよね。倉田のおかげで新書を読むようになったから。

倉田 新書は読むとめっちゃ面白いんですよ。小説より面白いなって思う瞬間があったりもするんで。

岩永 意外と小説より新書のほうが読みやすくない? 語り部が著者だから、登場人物の気持ちとかまで考えなくていいんだよね。

▲本の紹介をするうえでのこだわりを語ってくれた

――周りの芸人さんで本について共有し合う方はいらっしゃいますか? また、PodcastやYouTubeの反響なども含めて教えてください。

倉田 谷口つばさ(フリーのピン芸人)とは本の貸し借りはよくしていますね。あと、事務所の先輩のひつじねいりの細田さんとも。細田さんは、マセキ芸能社のファンサイトで自作の短編小説のコーナーを持つくらい小説が好きなんです。

その細田さんから、アメリカでベストセラーになった『十二月の十日』(著:ジョージ・ソーンダーズ、訳:岸本佐知子/河出書房新社)っていう本を借りたんです。びっくりするぐらいダメなやつばかりが出てきて、そいつらが頑張る話なんですけど。それは面白かったですね。

岩永 僕は他の芸人にミステリー小説を勧めますね。最近のミステリー小説って “ミステリー×〇〇”みたいな大喜利が続いているんですよ。だから、コントだったりネタ作りのテーマに向いていることが多くて。「このミステリー小説の、この部分すごいよ」みたいに勧めることは多いです。

倉田 この前、十九人のゆッちゃんw(ASH&D所属の芸人)が僕のYouTubeを見て、そこで紹介していた『ポテトチップスと日本人』(著:稲田豊史/朝日新書)を買ったことを報告してくれました。

岩永 大久保八億〔フリーの芸人。マセキ芸能社でコンビを組んでいたことがある〕はパチンコ打ってるときに、『リップグリップの出典』を聞くとパチンコをやっているクズさを知識で上書きできるから、プラマイゼロになるって言っていました(笑)。ありがたいね~!

倉田 聞いていると当たりやすくなるらしいですよ(笑)。

岩永 たらちね(松竹芸能所属)というコンビの草山(公汰)って人が関西にいるんですけど、めちゃくちゃ難しい本を読んで「面白かった! 紹介してくれたリップグリップさん、ありがとうございます!」みたいなことをTwitterで言っていたんです。でも、僕らはその本を全く紹介してないんですよ。「本といえばリップグリップ」みたいになってくれればありがたいですね。僕たちが関わってない本でも紹介したことにされて喜ばれたら、こんなオイシイ話はないだろうと(笑)。