「知と痴の融合」を体現するコンビ!?

――ここまで本のお話をメインでお聞きしてきましたが、本以外で気になっていることはありますか?

岩永 倉田は今年に入ってから新書一筋だよね。WBCもお笑い番組も一切見ずに。倉田が気になっていることって、人間がもともと気になっていることだから(笑)。

倉田 2年前に『芸人短歌』っていう芸人が作った短歌を、みんなで鑑賞するトークイベントのMCに呼ばれたときに、その勉強として『サラダ記念日』(著:俵万智/河出書房新社)を読んでみたんですよ。1987年頃、著者が20代前半ぐらいのときの短歌集で、当時、著者が経験した恋愛のエピソードや日常のことを短歌にしているんですけど、いま読んでも入ってきやすいんです。

短歌がこんなに受け皿の広いコンテンツだと思ってなかったので、すごく面白く感じました。それに、ツイッターや短歌投稿サイト『うたの日』などで、自作の短歌を載せている人も最近多いんです。うれしいことから悲しいことまで全部描けるし、ドラマ性が全くないものでも拾えるんですね。

“「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日”なんて、小説には全くならない。でも、著者にとってはすごく重要なエピソードなんですよ。お笑いに近いというか、なんでもない出来事が劇的なものに変わっていくという意味で、すごく興味深いです。

▲本以外の分野にも興味の幅が広い二人

――倉田さんは先日、鈴木ジェロニモさん主催の『ジェロニモ短歌賞』で優勝されていましたよね。

倉田 鈴木ジェロニモは短歌をたくさん作っているピン芸人なんですけど、ピースの又吉さんとトークライブをするくらい短歌の才能があるんです。短歌新人賞や雑誌の新人賞の最終選考に残った実績もあります。そんな彼が主催しているのが『ジェロニモ短歌賞』で、お題があって8名くらいの芸人が匿名で短歌を発表して、それに順位をつけるライブです。それで僕が優勝しました。短歌は31音しかないんで一瞬しか切り取れないんですけど、「そんな瞬間、確かにあるな」みたいな面白さがあります。

岩永 (優勝したときのは)どんな短歌だっけ?

倉田 僕が読んだのは「ISSもしもナスカの地上絵が絵しりとりなら報告しなさい」って短歌です。

岩永 この短歌、僕はあんまり評価していないんですよ(笑)。縦書きの短歌でISSはちょっと……。斬新だとは思うよ!(笑) でも、なんでもないドラマを切り取る感じがいいね。

倉田 40年前とかであっても、今あったことのように感じられるんですよね。サラダ記念日の短歌も、そもそもの出来事は違ったらしくて、実際は7月6日ではなくて6月7日だったらしいです。しかも褒められたのはサラダじゃなくてカレー粉をふりかけた唐揚げ。でも、“カレー唐揚げがいいねって言われたから6月7日は唐揚げ記念日”だったら、僕らは全く感動しないわけですよ。

それを“サラダ”にして、さらに“7月6日”っていう、なんとなく語感の良い、七夕の前日っていうロマンチックでもない日をチョイスすることによって、たぶん僕らは一生この短歌を忘れないし、聞いたら「何かすごいこと言っているな」って思える。こういうのが短歌の技術ですよね。

岩永 僕はアニメで描かれる演奏シーンに興味があります。『青のオーケストラ』っていうアニメが放送されているんですけど、アニメはわかりやすさ重視なんです。例えば、コンクールでショパンの曲を演奏するシーンでは、演奏者の演奏に違いを出さなきゃいけない。主人公が一番演奏がうまく、ライバル役もいて、それに憧れるキャラクターもいるなかで全員が同じ曲を弾くんです。

僕は正直、ショパンを聴いても違いなんてあんまりわからない。でも、こんな僕でもわかるように音の使い分けをしてくれてるんです。何がうまいクラシックなのかは全くわかんないけど、そのアニメを見ていたら主人公の演奏は僕でもわかるぐらいすごくて、鳥肌が立ったんです。

時代によって『のだめカンタービレ』『坂道のアポロン』『4月は君の嘘』など、音楽アニメの表現の歴史の変遷があるらしいんで、それを追っていこうかなと思っています。本の話と絡めるなら、音楽を言葉でどう表現するのかは気になったりしますね。

――「登録者の人数を増やす!」などの目標を立てている方もいますが、今後、PodcastやYouTubeなど本に関する活動はどうしていきたいですか? 

岩永 Podcast『リップグリップの出典』に関しては、僕らとクシロくんの三人で常に模索しながら進めているんですけど、「本の紹介だけで終わりたくない」という思いがありますね。

倉田 本を読んだあとに、僕らが何かを上乗せしていくようなコンテンツにしたい。

岩永 小学生が「昨日あのテレビ見た?」って話すように、話題として本が挙がるようになればいいなと思います。だから、カップルや友達同士の会話のキッカケになるようなコンテンツのお手本になりたい。本をオススメし合うのは既存の形としてありますけど、そこからさらに新たな楽しみ方を作っていけたらいいですよね。

登録者数はどちらかと言うと二の次で、今は試験運用みたいな感じです。自分たちで満足して「絶対に面白い」って言える形になったときに増えてきたら、“わかってもらえたんだ”と思えてめっちゃうれしいですね。

倉田 今は、なるべくベストセラーは手に取らないようにしています。本単体ではなく、その後のこととかを視野に入れながら、選んでいる節もあるかもしれないですね。YouTube『新書といっしょ』は、ひとりでずっと紹介しているんですけど、読んだあとに何かできないかなと思っていて。芸人のすごさって、なんでもない日常を切り取って、それを膨らましてお届けすることだと思うんですよね。

だから、芸人と新書を組み合わせるうえで、新書を読んだだけだと理論的なことがわかるだけなので、それが実生活にどう反映されてくるかを提示できたらいいかな。僕のスローガンは「新書を生活で翻訳する」ですね。「この話は本では描かれていないけど、こういうことあるよね」っていうのを引き出せる能力を身につけたい。そういうのをバンバン入れてくれている本は、僕がする必要ないんですけど、荒削りだったり、そういうことを省いている本もあるので。