岩永圭吾・倉田紘顕の両人ともに京都大学を卒業している漫才コンビ・リップグリップ。10代の頃からお笑いに向き合ってきた彼らだが、最近はYouTubeチャンネル『ゆる言語学ラジオ』のファンイベントのMCを務めるなど、お笑い以外の場所でも活躍の幅を広げている。
二人の共通点は、小さい頃から本に親しんできたということ。2022年10月からは、読んだ本を毎週プレゼンするPodcast『リップグリップの出典』を始めた。紹介した本の著者からSNSで反応されるなど、徐々にその活動が定着してきている。彼らの本にまつわる思い出やPodcastを始めたキッカケについて、ニュースクランチ編集部がインタビューした。
二人の関係は『漫才入門』から始まった
――普段から本をよく読まれるお二人ですが、本を好きになったキッカケを教えてください。
倉田 僕は『ハリー・ポッターと賢者の石』(著:J.K.ローリング、訳:松岡佑子/静山社)を読んだのがキッカケです。小学校1年生のとき、映画が公開されたタイミングで原作の本を買ってもらったんです。ハリー・ポッターシリーズを読んだおかげで、他の長編の本も読めるようになって、どんどん本が好きになりました。
中学校の英語の授業で、学校の先生に「知っている作品の英語の本を読みなさい」って言われて、ハリー・ポッターで英語の勉強を始めました。そしたら、内容を知っているから意外と読めるんですよね。ハリー・ポッターシリーズは1巻から7巻まであって、1巻が一番簡単な英語で書かれていて、そこからどんどん英語が難しくなっていくように作られているんですよ。
知らない魔法薬の名前が出てきたりして、最初は単語が難しく感じたんですけど、その段階を踏んだおかげで英語が得意になって、大学受験でも英語の点数がよかったので合格しました。卒論もハリー・ポッターをテーマに書いたんです。ハリー・ポッターは僕の人生ですね。ハリー・ポッターに育てられたというか、僕がハリー・ポッターなのかも(笑)。学生時代は髪型も一緒で丸眼鏡もかけていたので。
岩永 中高生の頃は戦国時代が好きだったので、司馬遼太郎の歴史小説をたくさん読みまくっていました。大学受験の時期だけ読書をやめて、大学入学後はミステリー小説を中心に読んでいました。大学時代、確実に本を「めっちゃ好き!」となったキッカケの1冊があって、それが『華氏451度』(著:レイ・ブラッドベリ、訳:伊藤典夫/早川書房)っていうディストピア小説です。法学部の先生の勧めで読みました。
本が害悪とされている世界で、“ファイヤマン”っていう本を燃やす仕事をしていた主人公が、何気なく手に取った本の魅力に惹かれ、本を守るための活動をしていくストーリーです。本って何かを語り継いでいくためには、めちゃくちゃ大事なコンテンツなんだなって気づかされました。
ストーリーの前半はファイヤマンの仕事をしていて、後半は本を持って川を下り海に逃げていく内容なんです。それで前半は「ひへん」(部首)の漢字が多いんですよ。そして後半は「さんずい」の漢字が増えていくんです。僕自身、漢字も好きだし、この物語にも合っているし、こういう翻訳ができる日本語ってすげえな! 活字の面白さってこうやって表せるんだ! と感動しました。僕の中で別格でしたね。この本は僕の人生で欠かせない1冊です。
――『リップグリップの出典』では、形式的にお互いに本を紹介し合うという形になっていますよね。お二人は中学からの同級生ですが、今まで本を紹介し合ったりしたことはありましたか?
倉田 紹介し合うことはあんまりなかったかな。中学3年生のときに「5月にある高校の文化祭で漫才をやろう」って岩永が言い出して、コンビでの活動が始まったんですけど、そのときに元祖爆笑王さんの『漫才入門』(著:元祖爆笑王/リットーミュージック)っていう養成所やアナウンス学院の教科書になるような本を二人で読みました。そこから僕らの芸人人生が始まっているんですよね。
岩永 あれは暗記できるくらい読んでいるし、ページもほつれているよね。
倉田 ボケの種類とか教科書っぽいことが書かれていて、そこに書いてあることを全部入れようと真面目にやっていましたね。芸人を始めたキッカケというか、僕らの学生時代の重要な本ではあるよね。
岩永 あんまり「教科書通りの漫才」とか言われたくないけどね(笑)〔※学生時代から現在までネタ作り担当は岩永〕。僕はそんなつもりなくて、ネタを作ったあとに答え合わせとして使っていただけです。あなた、あの本、全部読んでないでしょ!(笑)
倉田 読んでないけど、今があるのは『漫才入門』のおかげ(笑)。『漫才入門』通りの漫才やってますから!(笑)
岩永 それこそ、ハリー・ポッターは倉田からよく勧められます。「原作を読んだほうがいい」っていうのは、めっちゃ言われた思い出ありますし。大学時代はライブに出るために、京都から大阪まで電車で通っていたので、その行き帰りに本を読んでいたりとかはあったよね。「何を読んでるの?」って聞いていました。授業で必要な本だったり、その時期は僕は推理小説にハマって読んでいました。
倉田 あの頃は東野圭吾を読んでいたよね。
岩永 そうね。あと森博嗣もめっちゃ読んでた。
倉田 『すべてがFになる』(著:森博嗣/講談社文庫)は岩永に勧められて読んだね。
岩永 たぶん貸したと思う。貸す用にもう1冊持ってるから(笑)。
――そのときハマっていた本をお互いに知っているんですね。
岩永 話したがりなんですよね。影響を受けたものを共有したくなっちゃう。
倉田 話したがりなのは岩永だけだよ。
岩永 俺だけか(笑)。
倉田 話したがりだし、話すのがうまい。聞くだけで面白いんで“聞く読書”かも。
岩永 なるほどね。聞いた張本人は本の内容を覚えてないという(笑)。
倉田 内容は覚えてないけど、話が面白かったのは覚えているよ。
岩永 倉田が僕と逆で秘密主義なんです。だから、いい本を独占したがるというか。
倉田 つつましい性格なだけ(笑)。聞かれて初めて言う感じです。