第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したデビュー作『元彼の遺言状』(宝島社)がベストセラーとなり、ドラマ化もされた作家・新川帆立氏が、最新刊『縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル』(新潮社)を6月29日に上梓した。

『元彼の遺言状』『競争の番人』が映像化されるベストセラー作家だが、その経歴を紐解くと、弁護士やプロ雀士といったことに驚かされる。そこで、ニュースクランチのインタビューでは、新刊を書くことになった経緯や書きながら考えていたことに加えて、これまでの経歴、作家として影響を受けた人物などについても聞いてみた。

▲新川帆立【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】

“そもそも結婚ってなんなのかな?”という疑問

――今回の作品『縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル』、とても面白く読ませていただきました。既成概念みたいなものを気持ちよく覆してくれる読後感がありました。

新川 ありがとうございます! そういうつもりで書いたので、そう受け取ってもらえるのはとてもうれしいです。

――法律や離婚などがテーマの作品は、登場人物や話の流れが似通る部分があると思うのですが、この作品は全然違う印象を受けました。紬(つむぎ)みたいな弁護士さんもいるはずだよなと思ったんです。この作品を書くことになった経緯をお聞かせください。

新川 最近のニュースで、同性婚とか選択的夫婦別姓の話題が上がることが増えてますよね。今までの結婚という枠組みでは捉えきれないものが、現実として出てきているわけです。それに加えて、以前から “そもそも結婚ってなんなのかな?”という疑問が自分の中にあったんです。

「結婚」が何かを考えるには、逆の「離婚」の側から見るとわかるんじゃないかなと思って、離婚をテーマに作品を書こうと思いました。それで、私が元弁護士だったので、「離婚弁護士」を主人公にすれば書けるんじゃないか、という経緯で設定を考えた感じですね。

――これまでの作品も、書きたいテーマやトピックから広げていく感じでしたか?

新川 そうですね。何かしら興味のあるトピックじゃないと、書いていてツラくなってしまうので、最初の引っかかりとして興味のあることについて書いてます。今回に関していうと、結婚や離婚に興味はありましたが、それについてメッセージを発信しようと思って書いてるわけではないです。離婚についての“面白い話を書こう”という感じで書き始めましたが、意外と難しくて……途中で大改稿したりしたこともありましたが、なんとかまとまりました。

――難しいというのは具体的にはどういうところですか?

新川 連作短編なので、各話でのバリエーションを持たせないといけないのですが、意外と離婚案件ってバリエーションがないんですよ。

――なるほど、そういう難しさだったんですね。

新川 だいたい同じようなことになるんですよ。例えば、年齢が若くても、熟年離婚だったとしても、異性婚でも同性婚でも、結局は“パートナーとのもつれ”って、同じような感じになっちゃうんです。同じ話を5回したらつまらなくなってしまうので、バリエーションを持たせるのが難しかったですね。読んでいて飽きないようにするにはどうすればいいか、というのをすごく考えました。

――読んでいて飽きなかったですし、エンターテイメントとして面白く読めました。離婚についての事例や手続きなんかも説明的ではなく、頭にすっと入ってくる感じで。

新川 ありがとうございます。説明は多くなりすぎないように心がけました。長ゼリフで説明すると学習漫画みたいになっちゃうので(笑)。

――新川さんは人間を描くのがとても上手だと思うのですが、登場人物にモデルがいたり、もしくは有名人を当てはめて書いていたりするんでしょうか?

新川 モデルはいないんですよ。誰かの顔を思い浮かべて書くということもないです。読者の方から「映像が浮かびました」という感想をよくいただくのですが、執筆してるときは自分の中に映像は浮かんでないんです。自分では浮かんでないのに、そういう感想をたくさんいただくのは不思議な感じですね(笑)。

――今回の舞台を鎌倉にしようと思ったのは?

新川 北鎌倉に東慶寺という縁切り寺があるんですね。ここは江戸時代頃から縁切りの場所として有名でして、江戸時代は女性からの離縁ができなかったのですが、この寺に駆け込んで足掛け三年過ごせば離縁ができる、という仕組みだったそうです。離縁をしたくて一生懸命に走って、江戸から鎌倉までやってくる道中の記録などが実際に残ってるんです。そこまでして離婚しようとした女性がいたってことですよね。

現代を見てみても、経済的な理由などで離婚できない人もいて。じゃあ離婚したい人は、どこに駆け込めばいいのかと考えたら法律事務所なんです。なので、縁切りの駆け込み寺がある北鎌倉に法律事務所があったら面白いな、と思って舞台にしました。

――鎌倉周辺の風景も魅力的に描かれていたと思います。

新川 鎌倉には取材に行って、周辺の写真もたくさん撮って執筆の参考にしました。それから、移動の場面を書くときは、必ずGoogleマップでどのくらいの距離があるかを調べながら執筆しました。

――そこまで細かく調べているんですね。「その距離は歩かないよ!」って地元の人なら思う距離を平気で歩いたりする作品もありますけど(笑)。

新川 (笑)。あと、鎌倉近辺で季節ごとに咲いている花のパンフレットがあって、それを見ながら道に咲いている花や気温などを調べながら書くようにもしましたね。