紬先生と違うのは料理をしないところ(笑)

――「こういう人に読んでほしい」というのはありますか?

新川 私が一番にフォーカスしてる読者は、同世代の女性なんです。そして、同世代の女性が自分の彼氏とかに「この本面白かったよ」って勧めて渡したときに、男性にも面白かったと言ってもらえるようには書きたいと思ってます。

第一の読者である女性に深く刺さって、違う属性の人に勧めたときにも面白く読んでもらえるというのを目指してます。少なくとも不快な表現がなかったり、見当外れなことがないようにしていますね。男性の方からどう見えたか気になります。(インタビュアーに)……どうでしたか?

――変だとか不快に感じたりすることはなかったですよ。

新川 よかった!(笑)

――ここに出てくる男性みたいにはなりたくないな、とは思いましたが……男性全体を責められてるような気にはならなかったです。そもそも、新川さんが“男性ってこうだよね?”って属性で分けていないように思いました。

新川 たしかに、そういう感じで書いてはいないですね。男女差よりも個人差のほうが大きいという気持ちはあります。作中には、ひどい女の人も出てくれば、ひどい男の人も出てくるし。“この人はどういう人なのかな”というのを考えて書いている部分はありますね。

――それはとても伝わりました。

新川 よかったです。私も読者として引っかかることがあるんです。特に異性の描写とかだと“実際、こんな人いるかな?”とか思うこともあるので、気をつけて書いてます。

――新川さんと紬先生の似てる部分とか、全く違う部分とかをお聞きしたいです。

新川 紬先生の性格的なところは私に似てると思います。私も部屋は汚いし、道に迷いますし。違うところは、私は紬先生みたいに料理をしないところですね(笑)。インドア派だったりマイペースなところは、自分に似てるなと思いながら書きました。

――紬先生はマイペースですけど、人のことをしっかり見ていると感じました。言ってほしいことの少し手前のことを言ってくれるというか、依存させすぎないのが心地よかったですね。

新川 そこが難しいところなんです、依存させてほしい読者の方もいると思うので。でも、私はそれをするとクサくなって恥ずかしくなってきちゃうので、手前で止めちゃうんですよ。これは良し悪しだと思いますが、私の性格なんですよね。

▲読者を依存させすぎないのは意識しているという

マージャンの理不尽なところが好き

――新川さんは、弁護士・プロ雀士・作家……肩書がいろいろと変わってきたと思います。それぞれ目指されたキッカケや思いをお聞かせいただけますか。

新川 小さい頃から作家になりたかったので、“作家になる”というのは一本道としてありました。でも、すぐに作家になれるわけではないし、なったとしても食べていけるとは限らない。目標を諦める一番の原因は、経済的理由によるものだと思っています。言ってしまえば、お金さえあって生活ができれば夢を諦める必要はないはずなので、まずは経済的基盤を作ろうと思いました。国家資格がある専門職に就けば、とりあえずは食べていけるだろう、ということで弁護士になりました。

――サラッと言ってますが、それでなれちゃうのがすごいと思います。

新川 いえいえ。プロ雀士は全然違う話で。趣味で麻雀をやってて、プロの公式戦に出てみたかったので、プロになってみました。

――(笑)。なってみました、でなれるのがやっぱりすごいですよ。

新川 いえいえ、全然そんなことないです……。

――麻雀の魅力ってどんなところでしょう?

新川 理不尽なところが好きですね。最善の手を打っても負けたり、適当に打っても勝ったりするし。その偶発性が面白いと思います。私、高校の頃は囲碁部だったんですけど、囲碁はあまり偶発性がなくて、研究すればするほどうまくなるし、自分より段が下の人に負けることはほぼないし、段が上の人に勝つこともほぼないんです。

なので、試合当日のモチベーションがあまり湧かないんですよ。麻雀はそういうことがなくて、自分より強いはずの人に勝てることもあるし、自分より弱い人に負けることもあるので、自分がコントロールできない要素が多いところとか、その時々で楽しいですね。

――弁護士に話を戻しますが、国家資格といっても弁護士以外にもいろいろあると思います。弁護士を選んだ理由はなんだったんでしょうか?

新川 なりゆきですね。高校生の頃は理系で、一番身近な国家資格は医者だったんです。なので、大学の前期試験では医学部を受けてたんです。でも、それには落ちまして、後期試験に受かったんです。当時の後期試験が「医学部以外なら、どの学部でも行けます」というものだったんですが、私は医学部以外というのを考えてなくて、受かったあとに“医学部は落ちたけど、法学部に行けば弁護士という資格が取れるから、それでもいいかな”という感じで選びました。なので、志がなかったんです(笑)。

――どれもすごい話ですね(笑)

新川 いやいや、後期はまぐれで受かったみたいなもんです。