結婚は「パッケージプラン」みたいなイメージ

――「結婚」に対する印象ってどんなものですか?

新川 恋愛は好きなんですよ、恋人はいてほしいタイプなんです。けど、結婚願望はそんなにありませんでした。“なんで好きな人同士を国家に報告しなくちゃいけないんだ?”と思ってました。でも、法律家として見ると、届け出を出すとパッケージでいろんなメリットがあって、便利な制度ではあるんですね。明らかに「結婚」というレールに乗っかれる人が優遇される社会だと思うんですよ。そういう意味で「パッケージプラン」みたいな感じで捉えてました。

――ははははは!(笑)

新川 夫は結婚したがっていたんですけど、その理由を聞いたら「今後も原則として、ずっと一緒にいるという証がほしい」と。夫はちょっとセンチメンタル寄りでしたね。ただ、お互いに苗字を変えたくなかったので事実婚という形にはしたんですけど、人に紹介するときには「夫です」って言うし、自分も「妻です」って言います。今はそんな形で暮らしてます。

――そういう考え方だと、同性婚とか選択的夫婦別姓について政治家が議論してるのを見てバカバカしく感じませんか?

新川 すごくフワフワした話だと思いますね。「結婚」とか「家族」というものを、あまりにファンタジーとして捉えていると感じます。結婚も国が定めている法的な制度なんだから、他の制度と同じように普通に考えたらいいのになって。

――一人ひとりの権利でもありますもんね。

新川 そうですね。その権利を“この人にはあげて、この人にはあげないのはどうして?”って、ちゃんと一個ずつ考えればいいのに、やたらと家父長制的なイデオロギーの夢をかぶせがちになっちゃってる感じはしますね。

――古くからある既成概念の押しつけのようになっている感じ。

新川 歴史として必ずしも古くもなくて、今の結婚制度なんて100年ちょっとしかない伝統なんですよ。なので、あまりそこに正当性があるとも思わないですね。そこはもうちょっとドライに考えたらいいのになとは思います。

――お話を聞いていると、ハプニング要素がお好きなんですかね。

新川 そうですね。日常生活でも予定調和的な展開がイヤで、斜め上からぶっ壊してくれる感じの人が好きなんですよ、うちの夫もド天然なんですけど。「こういうときはこうしないといけない」みたいなことに則って、ひたすら常識的な動きを積み上げていく道が見えちゃうと、ものすごく窮屈で苦しく感じるんです。なので、野生に放っておいてほしいタイプですね(笑)。

▲野に放っていてほしいタイプと自身を語る

岡本太郎の言ってることは全部わかる

――新川さんに一番影響を与えた人物は誰だと感じていますか?

新川 岡本太郎さんですね。私、岡本太郎が言ってること全部わかります!っていうと、偉そうに聞こえるのでイヤなんですけど…(笑)。エッセイもたくさん書かかれてますけど、一言一言が全部わかる。“よくぞ言ってくれた!”って思うんです。

影響を受けたかはわからないですけど、自分を肯定してくれてるというか、自分と同じタイプの人間がいたんだなと、作品に触れたときに思いましたね。ちゃんと物事の本質を見て行動していて、“みんながこうしてるから”みたいなことに微塵も惑わされないところは、すごく共感します。

――私も岡本太郎の著作はよく読みますが、その感じはすごくわかります。

新川 わかります? もう一つ、岡本太郎に共感するところがあって「芸術は民衆のためのもの」「誰もが目にするところに置かないと意味がない」と言ってたところですね。「金持ちの家の書斎に、ひっそりと飾ってある絵なんてのはよくないんだ」って。これを書物に置き換えると、立派なことが書いてあって読めば面白いんだろうけど、一部のインテリだけが読む本を私は書くつもりがなくて。作品は大衆性があってこそだと思うんですよ。

――新川さんが興味あること、ハマってることってありますか?

新川 私、イギリスに住んでいるんですが、オペラにハマってます。日本だと古典的でオーソドックスなオペラが公演されることが多いと思うんですが、ヨーロッパってオペラ劇場がたくさんあって、そこでは新作がかかるから、昔の作品を昔のままやってもウケないんですよね。なので、かなり現代的なアレンジがされていて、衣装とか話の筋とかが変わってるんですよ。もちろん、オペラには名曲の歌があるので、その部分のセリフは変えられないんですね。

――ああ、なるほど。

新川 同じセリフでも、動きとかシチュエーションを変えることによって、違う意味になるんですよ。それで結果的に全然違う物語になっていくのが面白いと思って、ハマってよく見に行ってます。

――日本人には馴染みが薄い文化かもしれないですね。

新川 客席を見てると、あまり舞台を見てないんですよね。

――え?

新川 友達と行って、始まる前にお酒を飲んだりするんです。そして、なんとなく見て、幕間が30分くらいあるので、また飲むんですよ。で、後半見て、終わったらそのまま飲みに行くみたいな。社交の場みたいな楽しみ方をしてるんですね。

――スポーツ観戦に近い感覚なんでしょうか。

新川 そうですね。観劇というより体験ですね。日本のオペラ公演だと、30分の休憩がなくて、ぶっ通しでやって終わりということもあるので、カルチャーが全然違いますね。