コツコツ鍛錬することが作品につながる

――新川さんの座右の銘を教えてください。

新川 座右の銘って、作家になってからよく聞かれるんですけど、なにかな……「日々是鍛錬」ですね。具体的な目標とかがあるわけではないですけど、この作家という芸の道で、どこまで行けるか、何ができるかと思ってやってるので、常に鍛錬という気持ちでやってます。

――鍛錬ということで、意識していることってありますか?

新川 いろいろあるんですけど、例えば、面白いことを見聞きしたらすぐメモるとか。あとは、語彙力を増やしたいので、知らない単語に出会ったら必ず辞書を引いてメモをしておいて、時間があるときに見直して、外国語を勉強するみたいに日本語を勉強してます。一日一単語でも新しい言葉を覚えていけば、何年後かには語彙力が上がっているので、よりよい作品が書けるかもしれない。そうやって強制的に磨かないと達することができない文章表現の世界があると思っています。

――そこまでやられていることに心打たれました。

新川 世間の人の作家に対するイメージって、天性のひらめきで書いてるような感じに見えてると思うんですが、もっと職人っぽいというか、日々コツコツやることが多いと思うんですよね。

――そういうことを堂々と言える新川さんは強いと思います。

新川 私、自己承認欲求がないですからね。例えば、「ここがよかったです」って褒められても、「そう思って書いたから、それができていてよかった」って思うだけで。それで一喜一憂しないというか。純文学の作家さんって、作品の制作過程を論理的に説明したりしないんですよ。それは考えてても言わないのがお約束になっているらしくて。

私が『このミス』大賞を取ったときに、YouTubeで「このミス大賞の取り方」みたいなメソッドを解説をしたら、それを見た作家さんたちがびっくりしたらしいんです。「そんなことまで言っちゃっていいの?」って。私は逆にそれに驚いたんですけど。作品の作り方で評価が上がったり下がったりすることはなくて、どんな作り方であれ、出来上がった作品が面白ければ評価されるはずですよね。なので、メソッドとかを解説することに抵抗はないですね。

――まさに既成概念に捉われない考え方ですね。今後やってみたいことはありますか?

新川 歴史の勉強をしたいんですよ。ちゃんと史学科に行って、2年くらい勉強してみたいと思ってます。

――ちなみに、それはどこの歴史ですか?

新川 日本の近現代史ですね。明治以降の日本をもっと理解するために必要な範囲を勉強したいです。

――何かキッカケがあったんでしょうか。

新川 法律を勉強してリーガルの視点を持ったことで、世の中がより深く見えたんですね。なので、歴史を勉強したら、さらに別の軸で深く見えるようになるだろうなという直感があって。世の中のことをもっと知りたいという気持ち、それを知ることでいろんな作品を書ける気がしています。

作家として世の中を見る目が成長しないと、もう一歩踏み込んだものを書けないと思っているので、“自分が成長しなければ”という気持ちがありますね。仕事の調整とかをつけながら歴史の勉強ができる道を探してます。

――それも鍛錬の一部ですね。

新川 そうですね。“それをしたら、もっといいものが書けるのにな”という気持ちが常にあるので、やったほうがいいと思ってます。

(取材:山崎淳)


プロフィール
 
新川 帆立(しんかわ・ほたて)
1991年、アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『元彼の遺言状』で2021年にデビュー。他の著書に『倒産続きの彼女』『剣持麗子のワンナイト推理』『競争の番人』『先祖探偵』『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』などがある。Twitter:@hotate_shinkawa、Instagram:@hotate_shinkawa