あるサッカー漫画に心惹かれる

いきなりですが、『さよなら私のクラマー』(講談社)という漫画をご存知でしょうか?

『4月は君の嘘』(講談社)などで有名な新川直司先生作のサッカーをする高校生の少女たちを描いた群像劇で、僕はこの漫画がとても好きなのです。

女子サッカーがテーマということで、サッカー経験者が主たるターゲットになりがちなサッカー漫画のなかでは『アオアシ』(小学館)や『GIANT KILLING』(講談社)、『ブルーロック』(講談社)などと比べると少し知名度は低いかもしれません。

しかし、上記3つの漫画を含め、おそらく30作品ほどのサッカー漫画を読んできた僕の主観で言えば、全てのサッカー漫画のなかで、試合中の描写が最もリアルに描かれている漫画です。

まあブルーロックは別ジャンルですけど(笑)。

ちなみにブルーロックに関しては、サッカーがめちゃくちゃ上手い友達が僕に勧めるときに

「めっちゃ面白いよ! サッカーに通ずるところもあるし!」

と熱弁していて

「通ずるってなんだよ。サッカーではねぇのかよ」

と笑ってしまったのですが、今は「サッカーに通ずるところもあるなぁ」と思いながらハマっています。

ただ、リアル路線のサッカー漫画を読んでいると、どんなに「リアルだ」と言われているものでも、経験者目線で見ると

「いや、この守り方をしていたら、この位置にセンターバックがいるのはおかしい」
「このレベルのチームにしては、全体が間延びしすぎている」

とか、いわゆるボールを持っていないプレーヤーの立ち位置や、体の向きなど細かい部分に現実との乖離を感じてしまうことがあります。

しかし『さよなら私のクラマー』は、そういった違和感が全くない。ピッチ全体の俯瞰の映像が頭に自然と浮かぶのです。

女子サッカー漫画というだけで後回しにしている人がいたら、本当にもったいない。

登場人物やゴールシーンも

「あ、中村俊輔だ!」
「あのときのジダンのゴールだ!」

とか、通好みのシーンが多くオタク心理も押さえてきます。ダービッツやロナウジーニョ、ロッベンからミルナー、カンセロまで……くぅ! 憎い。

また新川先生の作品に共通して言えることですが、なによりも登場人物が魅力的で、その一人ひとり、言葉一つひとつに引きつけられる部分もたくさんあるので、ぜひご一読いただきたいです。

さて、なぜこの漫画の話をしたかというと、作中ですごく心を打たれたシーンがあったです。そうです。ここまでは前置きです。でも多くの人に読んでほしかったので、長めにプレゼンしました。

僕が胸打たれたシーン。

それは、興蓮館のエース来栖未加がチームメートと夢について語り合うシーン。

「得点王もとったし、代表にも呼ばれただろ? 順風満帆 夢なんて」

と、これ以上あるのか? という感じで尋ねられた来栖は、こう夢を語ります。

「私は、観客いっぱいのスタジアムで試合をしてみたい」

男子の僕には寝耳に水でした。

▲観客いっぱいのスタジアムで試合をしてみたい イメージ:panoramaimages / PIXTA

たしかに女子サッカー選手にとって、この夢を叶えるのがどんなに難しいことか。彼女の憧れは、どんなプレーヤーでも、どんな栄冠でもなく、大観衆の前でプレーすることなのです。

そのためには女子サッカー全体がもっと注目されないといけません。『さよなら私のクラマー』は、なでしこジャパンの選手が試合後のインタビューでこう答えるシーンから始まります。

「とにかく勝ててよかったです。ほっとしました。私たちが負けてしまったら、日本女子サッカーが終わってしまう」

かなり重い言葉ですが、これは実際に当時の女子サッカー界で言われていた言葉だそうです。男子以上に、世界で勝つこと以外で注目されることが少ないなでしこジャパン。実際、それくらいの危機感を持って戦っているのかもしれません。

現実でのなでしこジャパンは、2011年に「FIFA女子ワールドカップドイツ大会」を制して世界一になるのですが、悲しいことに女子サッカーの観客数は低迷しているのが現状です。

今年の女子ワールドカップですら、放映権の関係によって地上波で放送されないとの報道もされていました(ギリギリでNHKで放送されることが決定)。あの頃の選手たちが、漫画のキャラクターたちが憂いていたことが現実に起こりかけていたのです。

サッカー少女たちの夢の舞台が放送されないなんてなったら、彼女たちにとってこんなに悲しいことはありませんでした。選手や携わる人たちが悪いわけではないのに……。

ワールドカップって、どんなに貧しい国でも、ひとつのテレビにスラムの子どもたちとか村の人が集まって、皆で熱狂できる。そういう大会だと思っています。そんな大会が出場国で放送されないのは、あってはならないことだと思っています。