ネズ・バレロ(Nez Balelo)。この名前をご存じのない方は多いと思いますが、じつは今、日本人が最も注目すべきキーパーソンの一人です。その正体は、メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手の代理人。

今季フリーエージェントとなり、どこの球団へ移籍(もしくは現所属のロサンゼルス・エンゼルス残留)するか、そしていかに巨額な契約を手に入れるか、注目を集める大谷選手ですが、その契約交渉をまとめ上げるのがバレロ氏の役目。その大役を担うのに相応しい彼の経歴や実績を詳しく紹介していきましょう。

青木宣親選手のマネジメントも担当した日本通

バレロ氏は25年超の業界経験を持つ凄腕代理人かつ、アメリカの代理人事務所「CAA Sports」の共同創設者でもあります。母体である「CAA」(Creative Artists Agency)は1975年に創業され、ブラッド・ピット氏などのハリウッドスターを数多く担当する名門事務所です。

その一角である「CAA Sports」は、これまで数多くのメジャーリーガーのマネジメントを担当しており、直近の著名なクライアントには、昨年3億ドル(約435億円)の超大型契約を締結したスター遊撃手のトレイ・ターナー選手(ロサンゼルス・ドジャースからフィラデルフィア・フィリーズに移籍)や、昨季ナショナル・リーグの「サイ・ヤング賞」を受賞したマイアミ・マーリンズのエース投手サンディ・アルカンタラ選手などが挙げられます。

バレロ氏は前述のアルカンタラ選手を今でも担当をしているほか、ミルウォーキー・ブルワーズをはじめメジャー7球団を渡り歩いた青木宣親選手(東京ヤクルトスワローズ)を担当していたこともあり、スター選手および日本人選手のマネジメント実績についても太鼓判を押せるでしょう。

そんなバレロ氏も、興味深いキャリアを歩んできました。もともとは有望な野球選手で、1985年のMLBドラフト4巡目指名でシアトル・マリナーズに内野手として入団を果たすも、怪我により引退を余儀なくさせられます。その後はロサンゼルス郊外に野球学校「West Coast Baseball School」を設立しつつ、アトランタ・ブレーブスの一員としてスカウトおよび選手育成などに幅広く従事しました。

およそ10年にわたり野球学校の運営と球団の躍進に携わり、組織の成長に大きく貢献したあとにブレーブスを退団。さらに数百万ドルの価値にまで成長を遂げた野球学校まで売却してしまいます。

その後、イチからのスタートとなる代理人へのキャリア転向に成功。数年エージェントを務めつつ、一時期はスポーツ関連サービス会社「IMG Sports」の役員としても起用されながら、2006年に前述の「CAA Sports」を共同創設しました。そして、20年弱でMLBにおける代表的な代理人事務所へと成長させたのです。

メディアの前に出てこない理由は「大谷翔平ファースト」

▲入団会見時の大谷選手とバレロ氏 写真:アフロ

今やメジャー最大のスターへと成長した大谷選手に見合う輝かしい経歴はもちろんですが、“代理人としての考え方や性格”においても大谷選手と非常に相性が良いのでは、と推測しています。というのも、強気の面々が揃う代理人業界のなかでも、“とても謙虚”との定評があるバレロ氏は少し異質に感じるからです。

最も著名である代理人スコット・ボラス氏は、クライアントにたくさん稼がせるためにメディアへのリークを含めた巧みな交渉術を駆使しますが、バレロ氏の動きには常に「クライアントファースト」という精神が垣間見えます。

それでは実際にアルカンタラ選手の一例を見ましょう。2021年末には26歳という若さでマーリンズと5年総額5,600万ドル(=約81億円 / 6年目は球団オプションで2,100万ドル=約30億円)の契約延長を締結しました。

当時、フリーエージェントまで3年もあり、その後に見込まれる金額のほうが遥かに巨額にもかかわらず、アルカンタラ選手の「マイアミにいたい」という意向に沿った比較的に割安な契約となりました。一方で4シーズン目以降については、アルカンタラ選手の成績を鑑みた市場価値にほぼ等しい契約をしっかり勝ち取っています。

サインボーナス:150万ドル(約2億1000万円)
2022年:350万ドル(約5億円)
2023年:600万ドル(約8億7000万円)
2024年:900万ドル(約13億円)
2025年:1700万ドル(約25億円)
2026年:1700万ドル(約25億円)
2027年:2100万ドル(約30億円)

※2027年は球団オプション。球団が破棄した場合は200万ドル(約2,9億円)が支払われるため5年総額5,600万ドルとなる

一見、“当たり前だ”と思う方も多いかもしれませんが、交渉相手がお金にシビアであるマーリンズである点を踏まえると、相当にタフな交渉を乗り越えた結果といえます。自身の成果報酬(契約総数の5%が一般的とされている)を犠牲にしてでも、クライアントの意思を最大限に尊重し、そのなかで最大限の契約を勝ち取るのは代理人の鑑でしょう。

そして、大谷選手の代理人としてもその様子が伺い知れます。ファンやメディアからの注目度が、かつてないレベルにある大谷翔平というクライアントを持っていることの重みを意識し、インタビューなどにおける一言一言を慎重に選んでいる印象を受けます。

自分の言葉が変に捻じ曲げられたり、意図せぬ方向に報道されたり、翻訳で誤った意図に汲み取られたりしないように……そんな慎重な姿勢がとても印象的です。そもそも、前述のボラス氏のようにメディアの取材に頻繁には応じていないように思えます。これもすべて自身のクライアントである大谷選手を守るためと言えるでしょう。

今シーズンオフに5億ドル(約725億円)超えの契約が確実視されている大谷選手。お金に執着しない彼が、野球に専念できる最高の環境を希望するチームから勝ち取るには、バレロ氏以上の適任はいないでしょう。