現在の日本は、バブル以降の長期的なデフレからインフレに変化しています。ただ、このインフレは、原材料費などコストの上昇が原因で発生する「コストプッシュインフレ」なので、これ以上のインフレは望ましくありません。お金の達人である経済評論家・渡邉哲也氏が「デフレ脱却の方策」について詳しく解説します。

※本記事は、渡邉哲也:著『世界と人間を操る お金の学校』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

労働者の賃金を上げるために必要なのは?

現在の日本は、CPIは継続的に上がっており、コアコアCPI4.2%(燃料補助などがなければ4.5%)程度になっています。そして、これは企業間で売買する物品の価格水準を数値化した企業物価が上がり続けているため、長期にわたり継続すると予想されるわけです。

バブル以降の長期的なデフレから、日本はインフレに変化しているといっていいでしょう。

しかし、今回のインフレは、原材料費などコストの上昇が原因で発生する 「コストプッシュインフレ」であり、「悪性インフレ」であるともいえます。2023年8月15日の内閣府の発表によると、4~6月期の実質GDPは年率6.0%増と大きく伸びていますが、それは外需による部分が大きく、個人消費などの内需はマイナスに転じています。

その原因としては、食品物価などの上昇による要因が大きく、国内消費が減退してしまっているのです。ですから、これ以上のインフレは望ましくないということになります。そして、インフレの最大の要因は、世界的な資源インフレと輸入物価の上昇といえます。 

そのため、日銀の金融政策転換が議論されています。その一方で、国民負担を減らし内需を拡大する必要があるわけです。

▲労働者の賃金を上げるために必要なのは? イメージ:makaron* / PIXTA

企業業績は長く続いた「デフレマインド」の緩和と値上げの容認姿勢により、大企業の値上げが続き、利益確保しやすい環境ができています。また、円安による為替効果(決算は円で行われるため海外資産と利益の評価が上がる)がこれに拍車をかけ、企業業績は過去最高となり、連動して法人税も大きく上振れしているのです。

法人税は企業業績と連動するため、大きく変動しやすい税です。逆に円安に動くと逆の為替効果が働き、企業業績と税収を悪化させるでしょう。コロナ以降の慢性的な人手不足は、賃金を上げる圧力を強めています。

日本の雇用制度は海外のように簡単に解雇できない半面、賃上げは春闘を経た4月の1回しかなく、賃金に反映されにくいのが問題でした。したがって、日本は賃金の大幅変動が起きにくい労働市場なのです。しかし、非正規のパートやアルバイト市場では賃金が大きく上がっています。

また、いわゆる「チャイナデカップリング」によって、これまで中国に進出していた企業が、日本に回帰していることもプラス要因といえます。

したがって、上振れした利益を企業は給与に充てるべきであり、それが難しい企業は人手が確保できない状態を今のまま継続させることが望ましいのです。

特に今は何もしなくていいのです。安易に移民政策などで海外からの安価な人材を受け入れないことです。安い人材が入ってくることで喜ぶのは経営者だけで、それにより国内の賃金を下げては、デフレに後戻りするだけです。

人口減少による人手不足を補うためには、移民ではなく、一人ひとりの生産性を高めることが重要となります。従業員10人の会社で100億円儲けている会社もあれば、従業員が10万人いても赤字の会社もあるのです。従業員一人当たりの利益率を高める、付加価値をどこまでつけるかが問題で、そのカギを握るのは省力化・自動化で、これは電力の問題なのです。

原発の再稼働で企業の日本回帰を促す

なぜなら、機械などにより省力化・自動化をはかるには、それを動かす電力が必要だからです。政府は石油や電気代に補助金を投入し、価格の高騰を抑えていますが、そうした小手先政策ではなく、安価なエネルギー調達についてもっと真剣に考えるべきです。

原発を全基再稼働させた九州電力の電力の安定供給があるからこそ、熊本を中心にTSMCなどの半導体企業が続々と投資し、雇用を生み出しているのです。また、関西電力に関しても原発を再稼働させて安価な電力を供給できる態勢を整えることにより、もともと大阪にあったパナソニックも日本回帰を模索するようになっています。

日本のデフレの大きな原因の一つは、電力代金です。米国に比べ3倍、中国に比べ2倍もします。電力不足による電気代の価格差が、企業の中国進出を促した側面もあるのです。

非効率で災害の原因ともなっているメガソーラーや風力発電などの計画は、見直す必要があります。原発再開を急ぎ、エネルギーコストの上昇を抑えるとともに、供給制限を解き、自然エネルギーなどの非効率な電力確保はできるだけ抑え、高効率石炭タービンなどへの置き換えを進めるべきです。

▲川内原子力発電所 写真:東奔西走 / PIXTA

賃金の上昇とエネルギー価格の低下が、30年に及ぶデフレからの脱却の原動力となるでしょう。また日銀の金融政策としては、為替と物価を見ながら、出口戦略の一つとして量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていく「テーパリング」や、利上げをゆるやかに行うべきでしょう。

経済は一国の市場に合わせた規模で行うべきであり、その代わり、商品の品質を高めていくことを考えていかなければならないのです。