手羽先唐揚げの元祖ではない『世界の山ちゃん』

素直に謝るのではなく、逆に正当化。しかも、聞いていると「そう言われればそうかも」と思ってしまうから不思議です。それでも突っ込まれた時は「でも、名古屋の天むすはエビが大きい」とか「でも、名古屋は○○も入っていますよ」と返されることも。やはり名古屋人は手強(てごわ)いのです。

ほかにも有名な手羽先の唐揚げといえば、全国的には『世界の山ちゃん』を思い浮かべる人が多いと思います。ですが、実は元祖は『世界の山ちゃん』ではなく『風来坊』という同じ名古屋の鳥料理店。

もともとは、スープの材料ぐらいにしか使われていなかった手羽先に注目した風来坊創業者の大坪健庫さんが、手羽先を唐揚げにして独特のタレをつけたところ大人気に。そんな地元名古屋のローカルフードだった手羽先の唐揚げに目を付けたのが、世界の山ちゃん創業者の山本重雄さんで、その後の全国展開によって名古屋の“手羽先の唐揚げ”イコール世界の山ちゃん、という認識になってしまったわけです。

もちろん、このことを風来坊創業者の大坪さんは快く思うわけがないのですが、山ちゃんの山本さんも「自分の店が元祖」などと語ったことはありません。どのメディアにも「元祖は風来坊さんで、私はマネをしただけです」と語っているのです。

そうなると大坪さんも、山ちゃんとの間で事を荒立てようなどとは考えません。結果的には「手羽先の唐揚げを全国区にしてくれた」ということで、丸く収まりました。

▲手羽先唐揚げの元祖ではない『世界の山ちゃん』 イメージ:PIXTA

パクりをしていたのは少数派だった

なるほど。たしかに「名古屋めし」は意図的ではないパクリによって、独自の文化に発展したという説も一理あるかもしれません。そこで、もう一度、パクられているといわれる、天むす、ひつまぶし、鶏ちゃん、とんてきを調べてみました。

天むすは「名古屋が発祥の地」とうたったり「元祖○○」というところがまだありましたが、三重が発祥の地であることは、ほぼはっきりとしているようです。ひつまぶしは名古屋が特に発祥の地とは言い切っていませんから、パクり疑惑は「とんてき」と「鶏ちゃん」に絞られます。

鶏ちゃんは「元祖鶏ちゃん」という居酒屋さんはありませんし、名古屋発祥とも打ち出されていません。お店のメニューでも、ちゃんと「岐阜発祥」や「三重のご当地グルメ」などと書いてあったところが多いように思われます。

一方のとんてきも、メニューにしているお店はありますが、調べた範囲では「名古屋めし」「名古屋発祥」とうたっているところはありませんでした。「鶏ちゃん」同様、パクリをしているのは極めて少数のお店と見ていいでしょう。

結論として、名古屋めしは愛知県名古屋市を中心とする中京圏が発祥、もしくは中京圏で発展した独自の食事文化の総称として、名古屋の存在感を醸成するのに少なからず寄与しているといえます。