名古屋人は何かにつけてご当地めしを喧伝するきらいがある。しかし「天むす」「とんてき」「モーニング」「ひつまぶし」……、これらの元をたどると名古屋ではないという。50冊以上の著作をもつ県民性研究の第一人者である矢野新一氏が「名古屋めしはパクリだらけ」説を徹底検証する。

※本記事は、矢野新一:著『名古屋はヤバイ』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ひつまぶしは愛知発祥ではない

名古屋めしは、ほとんどがパクリという説があります。「天むす」と「とんてき」は三重県発祥で「鶏(けい)ちゃん」は岐阜県。「モーニング」(娘ではありません)は名古屋ではなく、一宮や豊橋発祥だとか。岐阜の人に言わせると、うちが発祥の地という人もいます。味噌カツも三重県津市発祥で、元祖のお店も現存しています。

ひつまぶしは大阪発祥説もありますが、かつて養鰻(ようまん)が盛んだった津市が発祥だという説が有力で、いずれにしても愛知が発祥ではありません。

▲ひつまぶしは愛知発祥ではない イメージ:PIXTA

岐阜県中部の家庭料理「鶏ちゃん」は、鶏のモモ肉と生キャベツを秘伝のタレなどで炒めた料理です。この「鶏ちゃん」を出す店は、当然、岐阜県が多いのですが、愛知県内でも増えているようで、あるテレビ番組が取材した愛知県のお店では、赤味噌と絡めた鶏ちゃんを堂々と「名古屋めし」として提供していました。

また、三重県四日市のソウルフードの「とんてき」は、分厚い豚肉をニンニクと一緒に濃いめのタレでソテーし、キャベツの千切りを添えた料理ですが、店舗数で名古屋に抜かれてしまいました。

このパクリ問題については、名古屋人の反論が面白いです。「天むすの発祥地が三重県だって、みんな知らないわけでしょ? 広めてあげたと言うと恩着せがましいけど、いいものは広めていこうという意識がある」。実は、この言い方に独特の名古屋人気質が見え隠れしているように思うのです。