2015年11月15日に引退した“ミスター・プロレス”こと日本プロレス界の重鎮・天龍源一郎が、1年以上の闘病生活を乗り越えてプロレスの聖地・後楽園ホールに帰ってくる。プロレスに人生を捧げてきた男の姿を確かめに、ニュースクランチが取材を申し込み、インタビューに成功した。

敗血症性ショックの緊急手術で見た幻覚

その闘病生活は壮絶だった。昨年6月24日、最愛の妻・まき代さんを亡くしながらも、7月2日の佐々木健介とのトークショー、8月17日の新木場大会まで天龍プロジェクトの解説&お目付け役を気丈に務め、同月21日に富士通スタジアムで開催された天龍プロの主力選手・佐藤光留の自主興行に立会人として来場。そして同月末に入院となった。

杖をついての歩行も困難になったための検査入院だったが、広範囲にわたる頚髄損傷(観軸椎亜脱臼に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症)で突然死のリスクもあるということで、長期入院を余儀なくされた。

首に4本のボルトを入れる手術の前、誤嚥をせずにモノが飲み込めるかの嚥下のレベルを確かめるために、ハローベストを数週間も着用。頭蓋骨にピンが刺さっているために寝返りも打てない状態なので、体を動かせないことから食も進まず栄養状態が下がり、整形外科の病院から内科、循環器科の医師が常駐する病院に転院。体力が戻ってから整形外科の病院に戻って手術……という具合に、病状によって転院を繰り返した。

「その頃のことは全然憶えていない。よっぽど俺の中にダメージが根深くあるから思い出せないんだよ。思い出したくない、忘れよう、忘れようとしていることなんだろうね」と、天龍は振り返る。

ハローベストを着用していた状態の昨年9月30日に親友の落語家・三遊亭円楽さん、翌10月1日にはアントニオ猪木さんが死去。これは精神的にかなりこたえたという。

「さすがにダメージが大きかったね。師匠が亡くなったとき、俺は首を動かせない状態だったけど、奥さんがスマホをテレビ電話にして“安らかな顔をしていますよ”って対面させてくれて、俺は画面越しに手を合わせることができた。猪木さんは車イスになっても……それこそ亡くなる直前まで、堂々とそれをさらけ出していたから“さすが猪木さん!”と感銘を受けたよ」

首の手術は成功し、年末年始、2月2日の誕生日前後は一時退院できたが、2月10日に腎臓からくる敗血症性ショックに見舞われた。夜、緊急手術のため救急車で転院したが、天龍は幻覚を見ていたという。

「夜中に“嶋田さん、移動しますよ”って起こされて、車に乗ったら海辺の近くの旅館みたいなところに連れていかれたんだよ。手術してICUに入れられたけど、2週間ぐらい記憶がない。1か月ぐらい意識が混濁していて無茶苦茶だった。でも、ジャンボと三沢が呼ぶのには応えなかったよ。あとグレート小鹿が俺を三途の川に俺を落とそうとしたから、体を入れ替えて逆に小鹿を落としたんだよ。あっ、小鹿さんはまだ元気に生きているか(笑)」

みんなの前に俺をさらけ出せるのは清々しい

こうした天龍節が出るのも、快復したからこそ。6月22日に約10ヵ月の闘病を終えて退院。7月17日は北沢タウンホールでサイン会&撮影会を行って、約1年ぶりにファンと触れ合った。

しかし、8月15日に3日間のつもりで検査入院すると、心臓に不具合が見つかって同月28日に手術。9月19日に今度こそ病魔をKOして退院した。

「入院するつもりで行ってないから、先生から“このままじゃ帰せないんです”って言われて、さすがにダメージ受けたよ。俺は3日間のつもりだったからね。頑丈だって自惚れていたから、俺の体がこんなにもガタがきているとは夢にも思わなかったよ。でも、それを乗り切ったのは13歳から入った相撲のちゃんこ鍋のおかげだと思ってるよ。今は高級魚になっちゃったイワシとかをよく食わされたからね(笑)」

今は11月19日に後楽園ホールで開催される『第3回龍魂杯』優勝戦に来場してリングに上がるために、歩行器を使った歩行訓練、先生に週2回自宅に来てもらってリハビリに励んでいる。

2022年10月9日のまき代夫人追悼の意味も込めた『革命龍魂』以来となる今回の後楽園ホール大会について、天龍は「なんで今回、後楽園ホールでやりたかったというと……新木場であれだけ激しい試合、いい試合を俺は目の当たりにしていたから、紋奈さんと話をして、もうそろそろ後楽園に行っても、見に来たお客にウソをつくことはないなと思ったからなんだよ。これは天プロに集まってくれる選手たちが、俺のいないあいだでも新木場で頑張ってきた結果だから。先日の新木場(11月6日大会)も映像で見たけど、胸を張って“プロレスが見たけりゃ、今の天プロを見たほうがいいよ!”“天プロを見たか!?”って言えるよ」

振り返ると、後楽園ホールは天龍にとって、いつも人生の新たな第一歩を踏み出した場所だった。81年7月30日にビル・ロビンソンと組んで、ジャイアント馬場&鶴田のインター・タッグ王座に挑戦してプロレスに開眼し、92年7月14&15日の後楽園2連戦で自らの団体WARを旗揚げした。

2000年7月2日に10年ぶりに全日本プロレスに復帰したのが後楽園ならば、12年12月29日に脊柱管狭窄症手術を乗り越えてリングに復帰したのも後楽園。2020年11月15日の引退5周年記念大会では、リング上でオカダ・カズチカとトークショーを行ったが、体力が落ちて杖で歩くのも難しい状態から懸命のリハビリで、自らの力でリングに上がった。そして今回、天龍はどんな新しい一歩を踏み出すのだろうか?

「痩せたとか、顔が変わったとか、SNSでどうたらこうたら書かれるのは承知の上。何を書かれても動じないよ。自分の職業を一生懸命やってきた結果がこれだから、恥じることは何もない。みんなの前に俺をさらけ出せるのは清々しいよ。たぶん、みんな“えーっ!?”って衝撃は受けるだろうけど、俺は“こんなもんだよ、プロレスラーは!”っていうのを、まざまざと見せてあげられると思っている。当日、もしかしたらリングに上がれないかもしれない。車イスでリングサイドまでしか行けないかもしれない。自分でもわからないよ。でも、俺は今のありのままの天龍源一郎を皆さんに見せるから!」

▲ありのままの天龍源一郎を見せると語ってくれた

痩せようが、車イスに乗っていようが、73歳になろうが、天龍源一郎は天龍源一郎。11月19日、後楽園ホール……プロレスに人生を捧げた男の姿を見よ。

(取材:小佐野景浩)


<イベント情報>
『第3回龍魂杯』
2023年11月19日(日)
決勝戦《その他数試合予定》
天龍源一郎来場
【時間】10:45 OPEN / 11:30 GONG
【会場】東京・後楽園ホール (東京都文京区後楽1-3-61 後楽園ホールビル 5F)
【チケット料金】(前売りチケット)※当日券は500円UP
▽プレミアムシート(特典付き)…20,000円(南側最前列)※完売
▽特別リングサイド…12,000円(東西最前列)※完売
▽リングサイド…8,000円(東西南2列目3列目)
▽指定席A…6,000円(東西4列目以降ひな壇/南A列~L列)
▽指定席B…4,000円(南M列~R列)
※お座席の指定は受け付けておりません。
※小学生以上の方はチケットが必要となります。
未就学児のお子様は保護者様1名につき1名まで、保護者様の膝上での観戦に限りチケットは必要ございません。

【チケット販売所】
▽天龍プロジェクトショップ:http://tenryuproject.jp/product/666
▽TIGET:https://tiget.net/events/270519
▽プレイガイド
◆ローソンチケット:https://l-tike.com/
Lコード31982
◆チケットぴあ:https://t.pia.jp/
Pコード857-296
◆後楽園ホール5階事務所