風来坊な老人になってフラフラと食べ歩く

もう一つ、都会ならではの楽しみがあります。交通網が発達して日帰りで近在の町に出かけるには、都会ほど便利な場所はないからです。たとえば朝の通勤ラッシュを外して電車に乗っても、東京なら千葉や神奈川、あるいは茨城まで足を延ばすのは、日帰りで十分に可能です。

とりあえず「海のほうへ行こう」と目的地だけ決めて電車に乗れば、港町で昼ご飯を食べることができます。漁師町の小さな食堂で新鮮な魚料理、といっても焼き魚定食ぐらいなら気安く味わえるのです。

あるいは北関東まで出かけて餃子を食べてもいいし、それこそラーメンならどこに出かけても、行き当たりばったりのラーメン屋で、その町独特のスープや具の入った地元のラーメンが味わえます。たまには贅沢を決め込んでウナギもいいでしょう。

▲風来坊な老人になってフラフラと食べ歩く イメージ:East & West / PIXTA

『孤独のグルメ』を気取るまでもなく、一人暮らしの高齢者こそ、一人ご飯は自然体で楽しめる世界だということです。自分で料理して自宅で食べるのが高齢者の自立した生活にはいいと言われますが、味気ないし義務でボソボソ食べるような昼ご飯にしかなりません。

家族や同居している人間がいると、やれ「そんな脂っこいものばかり食べて」とか「齢なんだから外食ばかりしてないで」と言われそうですが、一人なら遠慮は要りません。それに日帰りの小さな移動でも歩き回ります。

いろんな風景も目にするし、人間にも会います。どんな小さな町に行っても働いている高齢者はいるし、マイペースで暮らしている同世代が大勢います。そういう仲間たちに会えば、「まだまだ楽しまなくちゃ!」という元気が出てきます。

それに、なんといっても、行き当たりばったりの店で美味しいものに出会うとうれしくなります。「次は山のほうに出かけてでも食べてくるか」という広がりが生まれます。ほんの日帰りの昼飯の旅でも、一人の世界がどんどん広がってくるのです。