自分の年齢を気にしすぎる「年齢呪縛」は、心はもちろん、体の老いも加速させてしまう。では、どうすればいいのか? 高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹氏がたどりついた結論。年齢に捉われず、いくつになっても脳を若々しく保ちたい方、必見です。

※本記事は、和田秀樹:​著『心が老いない生き方 -年齢呪縛をふりほどけ!-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

アウトプットが脳を活性化する

脳を若々しく保つためには「アウトプット」することが重要です。たとえば、オープンな勉強(習い事)の場に出向くのもいいでしょう。

絵画教室、音楽や読書のサークルなど、なんでもかまいません。オープンな勉強のいいところは、発表の場がどんどん用意されることです。

どんな勉強でも習い事でも、自分の意見を発表したり文章にまとめたり、あるいは教室で議論するようになります。

自学自習にはこれがなくて、ただ読んだり覚えたりするだけになります。

ところが記憶力が衰えてくると、覚えることが苦手になります。そのうえ、インプットだけでは脳があまり刺激されません。

▲脳の活性化にはアウトプットが重要 イメージ:USSIE / PIXTA

その点でアウトプット、つまり発表したり書いたり議論する作業は、いくつになっても脳全体を刺激して活性化します。高齢者の脳を活性化するのは、インプットではなくアウトプットなのです。

大学教授のように知的な仕事をしている人は、いくつになっても脳が若々しいと思われがちですが、それは大間違いです。文献を読んだり自分の古い著作をテキストに講義しているだけの教授は、脳がどんどん老化してしまい、認知症にもなるし新しい発想もできなくなります。

あくまで、高齢になっても新しい論文を書いたり、あるいは学生と本気で議論したり、自分の学説をわかりやすい一般書にまとめたりするアウトプットの作業を怠らない教授でなければ、脳の若々しさは保てないのです。

そして、脳の若々しさは権威や年齢にこだわらない自由な生き方から生まれてきます。

そういう意味でも、何かを学びたいと思ったら、まずアウトプットの機会に恵まれている場所を探してみましょう。

なにより大切なのは「もういい齢だから……」という、年齢に捕われた考え方を捨てることです。

たとえば、小説を書きたいと一念発起したときに、コツコツと自分の世界に閉じこもるだけでなく(それはそれで大切でしょうが)、小説の教室やサークルのようなオープンな場所に参加してみる、という気持ちが必要になってくるのです。

前頭葉の若さが「年齢呪縛」を吹き飛ばす

大脳の一番前にある部位である「前頭葉」は、好奇心やときめきを作り出します。

簡単な言い方をすれば、自由を求める脳が前頭葉です。

発想や思考の自由、行動の自由。つまり、自分を縛らないで心が求めるままに生きている状態というのは、前頭葉にとっても快感なのです。

ところで、高齢になってくると、たいていの人は二つの生き方のどちらかを選びます。

一つは、まずは年齢を乗り越えよう、老いに逆らって元気にやっていこうという積極的な生き方です。

もう一つは、逆に、年齢に逆らわず、老いを受け入れて穏やかに暮らしていこうという従順な生き方です。

世の中でしばしば注目されるのは前者のほうで、90代になってもまだ元気で活動的に生きている人は、身体的なトレーニングでも食生活でもバイタリティにあふれています。「すごいな」とか「さすがだな」と感心させることが多いのです。

でも、後者の生き方にも納得したり共感する人も多いはずです。

「穏やかに暮らせるのがいちばんいい」「わたしも無理しないで自然体で生きたい」と憧れます。

わたしは、大事なのは本人が自由に生きているかどうかで、どちらの生き方であっても、老いを感じさせない人に共通するのは「自由に生きている」ということだと思っています。

▲前頭葉の若さが「年齢呪縛」を吹き飛ばす イメージ:metamorworks / PIXTA

パワフルに生きている高齢者は、それが楽しいし、やりたいことがあるのでしょう。どうしても実現したいことがあって、その願望を封じ込めないで心の命じるまま、気持ちの向くままに動き回っています。傍から見れば頑張っているようでも、本人はやりたいことができるというのが幸せなのです。

老いを受け入れて穏やかに暮らしている人はどうでしょうか?

やはり同じです。本を読んで一日過ごせるなら何も望まないとか、古い映画を見ているだけでいろいろなことを思いだして、気がつけばあっという間に一日が終わってしまうとか、そういう穏やかで静かな暮らしも、心の自由がなければ楽しめません。

毎日の約束事、自分に課した家事や運動のノルマなどを「今日はいいや」とあっさり放棄して、好きな時間を大切にできる人です。前頭葉がワクワクしている時間を優先することができる人です。