メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手の影響で、睡眠を見直す人が増えている。そして、これまでは睡眠時にみる夢については科学的に解明されていないことも多い、というのが定説でしたが、実はかなりの部分が解明されていて、それを知るとかなり面白いのです。よく皆さんがみる夢としてあげられる「飛ぶ夢」「落ちる夢」「追いかけられる夢」「間に合わない夢」などについて、睡眠の専門家・松田英子氏が解説します。

※本記事は、松田英子:著『1万人の夢を分析した研究者が教える 今すぐ眠りたくなる夢の話』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

年配者でもみる試験に関する夢

夢は睡眠時の精神活動のレベルを反映しており、階層性(不鮮明 / 鮮明)があります。もっとも鮮明な(ゆめみ=夢をみること)は、悪夢と明晰夢です。

レム睡眠中の夢見は感覚的で感情的、ストーリー性と奇怪さがあり、いわゆる夢らしいものです。そのほか、イメージ・思考・身体感覚が、ぼんやりと記憶に残るレベルの認知的活動などは、ノンレム睡眠中の夢に近いかもしれません。

典型的な夢のテーマ、悪夢のテーマには、ディテールこそ時代や文化によって異なるものの、共通性があるようです。

夢のテーマとして文化を超えて多く報告されるのは「飛ぶ夢」です。印象に残りやすいこともありますが、夢らしい夢といってよいのではないでしょうか。

その飛び方は、現実の心理状態で変わってくるかのようにバリエーションが多いです。調子がいいときは宇宙から地球を見下ろして気持ちよく飛ぶ夢になりますし、余裕のないときには泳ぐように手足をバタバタさせ、手足の動きを止めると地面に着きそうになるといった夢になります。

「落下する夢」も多いのですが、飛んだあとに落ちる場合もあります。夢の中での飛び方は、今の生活をどれだけうまくやれているかという自己評価が関係しているようにみえます。

そのほかの夢見で多いテーマとしては、「追いかけられる」「間に合わない」「同じことに何度も挑戦する」などがあります。

「追いかけられる夢」はポピュラーですが、何に追いかけられるのかは個人差がたいへん大きいです。

小学生くらいですと、「鬼」「化け物」、思春期以降は「悪者」「敵」、メディアの影響では(ホラー作品『リング』に登場する)「貞子」や「ゴジラ」などの架空の人物や生き物、「動物」、さらには「上司」や「教師」など具体的な人物となる場合もあります。

「間に合わない夢」と同様、その影響として考えられるのは、何かの決断に迫られているなど、ストレスへの対処が差し迫っている状態が多い気がします。

また「明日、入試なのに勉強が終わっていない」「答案用紙に何も書けない」など、試験に関する夢は年配者にも多いものです。

▲年配者でもみる試験に関する夢 イメージ:chachacha / PIXTA

実生活でも時間に追われている、準備が十分でないと感じているときに見る人が多く、自分の仕事ぶりを他者がどのように評価するか、などを懸念していることに関わっていると思われます。

夢は危機対応へのシミュレーション

「試験ができない」「バスに乗り遅れて遅刻した」などは、失敗を暗示する夢のようですが、実は真面目できちんと準備しようと苦心するタイプの人がよくみるため、むしろ、実生活では失敗する確率が低い方が多くみる夢なのではないかと考えています。

私は大学教員になってから「試験の夢」はみなくなりました。おそらくルーティンの仕事のひとつとして、試験を実施する立場になったからだと思われます。最近、大学入学共通テストで9科目受験する夢をみて、久々だなと驚いたくらいです。

こういった夢の役割として「シミュレーション仮説」があります。ゲームの夢、手術の夢、試験の夢など、詳細はバラバラでも時代ごとに大きなテーマの共通性があり、これらの課題を乗り切ることには進化的な価値があります。

ヒトは集団で生きる動物ですので、適応性を高めるために、夢で危機対応のシミュレーションをしているとも考えられています。