僧侶でありながら看護師としても現役で勤めつつ、スピリチュアルケアにも従事する玉置妙憂氏が、看護の現場で体験したケースから献身と独りよがりの違いについて語ってくれました。自分の心が満たされているからこそ、余裕をもって相手にも優しくできるのです。

※本記事は、玉置妙憂:著『心のザワザワがなくなる 比べない習慣』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「気づくこと」が変わることへの第一歩

看護師には、患者さんに喜んでもらいたいと思って日々の業務をしている人がたくさんいます。しかし以前、こんな看護師さんがいました。その人は、患者さんの足を洗ってあげるとか、顔を拭いてあげるといった献身的な看護を自分から積極的にしていました。

ただ、医師からは熱心に仕事をしてえらいと評価されているのに、患者さんからは喜ばれていなかったのです。本人はその理由がわからないようでしたが、まわりにいる私たちから見れば、残念ながら、それは独りよがりな看護でした。

本人は「患者さんのため」と言っていたけれど、実際には「自分のため」。「患者さんの足を拭いている自分は偉い」と思いたいからこその行為だったのではないかと思うのです。

この看護師の例が示すように、いくら頑張っても感謝されないときは、相手にイライラするのではなく、自分の気持ちを振り返ってみることが重要です。

そこで「あれ、ちょっと待って。自分のためにやっていなかったかな?」と気づくことができれば、次からは行動が変わっていくでしょう。たとえば、患者さんに「いま、何をしてほしい?」と聞くことにつながるかもしれませんね。そのときに患者さんが「いまは放っておいてほしい」と言ったら、できる限り受け入れるのがベストな看護なのではないでしょうか。

誤解してはいけないのは、どんなときでも自分を犠牲にして相手に尽くさなければいけない、ということではありません

たとえば、患者さんや高齢者を支えるご家族は、休みのない介護に疲れ果ててしまうこともあります。家族のことを思えば、自分がゆっくり休んでいる場合ではないと、自分の体調面を棚上げにして頑張っていらっしゃる人も多いのです。

けれども、家族を最後まで介護するために自分を満たすことは、心をおだやかに保つためには必要不可欠です。きちんと食事をとり、十分な睡眠時間をとって、ときには心身をリラックスさせるために外出し、たまには旅行にも出かける。そのために、ほかの人やヘルパーさんなどにお願いしたって、罪悪感を感じる必要はありません。

▲「気づくこと」が変わることへの第一歩 イメージ : PIXTA

体調がいいからこそ、介護という大仕事に向きあえるのです。心が満たされているからこそ、余裕をもって家族に優しくできるのです。

自分が苦しい状態では、ほかの人のことを思うこともできません。これは仕事や子育てをする場合なども同じですよね。「相手のため」になることに気づいたら、それを行なうために自分を犠牲にするのではなく、同時に自分の体や心を整えることを考えましょう。

過去の後悔よりも「選択できた自分」を認める

過去のことをずっと後悔しているという人がいます。

たとえば、先日お話をうかがっていた患者さんで、子どもが幼い頃に、自分が働きに出ていたことが悔やまれてならないという人がいらっしゃいました。その人は出産後すぐにフルタイムで復帰され、仕事が激務だったこともあり、お子さんはおばあちゃんや保育園に預けっぱなし。お子さんが中学校に入り、自分も仕事に余裕が出たと思ったら病を得た。

「こんなことになるなら仕事なんか辞めて、もっとそばにいればよかった」とおっしゃるのです。

お子さんが、さみしかった悲しかったと訴えていらっしゃるかというと、そういうわけではありません。まだ10代で母親が亡くなるかもという不安にさらされているのに、気丈に「母は家族のために一生懸命働いて無理もしたと思うので、今度は私が支えます」とおっしゃいます。

お子さんも、ご主人も、みんなが彼女の努力を認めていて支えようとしている。でも、彼女にとっては、お子さんの面倒をみなかったこと、仕事に時間をとられ、よい母親でいられなかったことが悔やまれてならないのです。

もちろん、過去の自分の選択や行ないを悔やむ気持ちは当然です。けれど、過去には戻れません。

自分がしてきた選択は、そのときにできた最善のものだったと考えてみることも、時には必要です。

▲過去の後悔よりも「選択できた自分」を認める イメージ:PIXTA

どのような経緯があったとしても、自分が選んで決断したことがベストアンサーだった。「あのとき、ああすればよかった」「こうすればよかった」と悩んでも、そのときの自分にはそれしか選べなかったということなのです。むしろ、そうした状況で決心し、実行した自分を認めてあげてください

どんなに後悔しても、過去に戻ってやりなおすことはできません。「あのときは、ああするしかなかった」と心に刻むことで、あなたの心はよりおだやかになり、これからの人生が生きやすいものになるはずです。