『ハロウィン』『M3GAN / ミーガン』をはじめとした数多くのヒット作を生み出し、ホラー映画界を牽引する「ブラムハウス・プロダクションズ」が、新たな恐怖を解き放つ『エクソシスト 信じる者』。あの名作映画『エクソシスト』の50年後、現在を舞台とした正式な続編で、12月1日から全国映画館で公開中だ。

『エクソシスト』のオリジナルキャストである、オスカー女優エレン・バースティンが、同役クリス・マクニールを再演。二人の少女をめぐる壮絶な物語を、かつて想像を絶する恐怖を味わったクリスが再び目の当たりにする――。

今回、海外では実際にある「エクソシスト」の役割や、悪魔祓いの条件などを作家の島崎晋氏に解説してもらった。映画を見る前に知っておくと、よりエクソシストの世界が理解できるだろう。

エクソシストは映画のひとつの“ジャンル”

暫定的ながら、2023年の映画興行収入ランキング・ベストテンのうち邦画が8本を占めたのに対し、洋画は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と『ミッション・インポッシブル / デットレコニングPART ONE』の2本に留まった。

この結果をどう分析するかはともかく、ここでは今年公開された洋画のなかで、タイトルに「エクソシスト」の語のつく映画が2本あったことに注目したい。ひとつはオスカー俳優のラッセル・クロウが主演を務め、アメリカ・イギリス・スペイン合作の『ヴァチカンのエクソシスト』で、もうひとつが12月1日に公開されたアメリカ映画『エクソシスト 信じる者』である。

今さらかもしれないが、エクソシストとはキリスト教のカトリックにおいて「悪魔祓い」の資格を持つ聖職者のこと。日本では1974年(制作は1973)に公開されたアメリカのホラー映画『エクソシスト』の影響で、その名称が定着した。

1970年代の日本は洋画の全盛期。黒澤明監督の作品を例外として、邦画を見に行くと言えば変人扱いされ、映画館で見るなら絶対に洋画という状況のなかでも、『エクソシスト』がもたらしたインパクトは桁外れで、それからあまり間を置かず、『ヘルハウス』『オーメン』『キャリー』『家』などアメリカのホラー映画が続々と上陸。どれも大ヒットを記録し、ホラー映画の一大ムーブメントを沸き起こした。

先陣を切った『エクソシスト』はリスペクトの対象となり、正統な続編が何作も作られたうえ、「エクソシスト」の名を冠した作品、エクソシストを題材にした作品はゾンビ映画同様、一つのジャンルとして確立したかのように見える。

実在した現代史上最強のエクソシスト

今年公開された2作品は従来とは毛色が違っている。まず『ヴァチカンのエクソシスト』について言えば、これは実在のエクソシスト・アモルト神父の回顧録『エクソシストは語る』を原作とした作品。

アモルト神父はヴァチカンの教皇庁で主任エクソシストを務めた人物で、2016年9月19日に呼吸器疾患のため91歳で亡くなっているが、訃報を伝えるAFP通信社の記事はその経歴を以下のように記す。

アモルト氏は「国際エクソシスト協会(AIE)」を設立し、2000年に引退するまで会長を務めた。AIEには今日、30か国で活動する250人のエクソシストが所属している。

2013年にはフランスの出版社が、人に「取りついた」悪魔を追い払うのではない祈祷の儀式を含め、16万件の悪魔払いをしたとするアモルト氏本人の言葉を紹介。同年、著書『ラスト・エクソシスト――悪魔と私の戦い』がフランスで刊行された。

▲ガブリエーレ・アモルト神父の著書

アモルト氏は人気児童小説『ハリー・ポッター』シリーズについて、子どもたちに黒魔術を信じ込ませるものだとして非難していた。

ヴァチカンは2014年にAIEを公認したが、カトリック教会のなかには悪魔払いを疑問視する見方もある。

つまり、カトリックの総本山であるヴァチカンの教皇庁は、悪魔の存在を公式に認めているわけで、ローマ郊外にあるではエクソシスト専門の講座も開設され、一般人にも開放されている。

新聞社のローマ特派員としてヴァチカンへの取材を重ねた郷富佐子著の『バチカン――ローマ法王庁は、いま』(岩波新書)によれば、講座の内容は「聖書と神学における天使と悪魔」「悪魔からの短期、長期的な解放」「エクソシストが直面する危険性」「オカルトと悪魔主義者」などからなり、講師は現役エクソシストや神学者が務める。

最終試験に合格すれば修了資格がもらえるが、それでエクソシストになれるだけではなく、なれるのはカトリックの神父に限られる。アモルト神父こそ悪魔について最も詳しい、現代史上最強のエクソシストだったのである。