人気漫画『呪術廻戦』でも描かれますが、呪術は呪(まじな)いの法です。日本史上で呪術高専に類する組織といえば、701年制定の大宝律令に基づき、中務省という中央省庁の管下にあった「陰陽寮」をおいて他にありません。いにしえの時代を駆け巡った陰陽師たちについて、歴史作家の島崎晋氏に解説してもらいました。

※本記事は、島崎晋:著『鎌倉殿と呪術 -怨霊と怪異の幕府成立史-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

現実にも存在した呪術組織「陰陽寮」

芥見下々の漫画『呪術廻戦』は、ポスト『鬼滅の刃』の筆頭候補に挙げられるだけあって、文句なしの傑作です。

主人公の()()()()が転入したのは、宗教系の私立校というのは表向きで、本当は東京都立呪術高等専門学校(呪術高専東京校)という、日本に2つしかない呪術師養成学校の1つという設定です。

もう1つは京都校で、東京・京都の両校と卒業生全体の頂点には、総監部という長老会議のような組織が存在します。

両校とも学長以下、各学年に担任が1人、生徒が3~5人の構成ですが、東京校にはそれ以外にも専属医師が1人、忌庫番(きこばん 守衛の意味)が2人、補助監督が十数人いるように描かれています。

卒業後の進路は自由ですが、呪術師を本職に選んだ場合、任務の指令が学長から発せられる関係上、多くの者はそれぞれの校舎を起点に活動しています。補助監督は呪術師になるには力不足なため、使用可能な呪術も“帳の上げ下ろし”か、事件が呪いによるものかどうかの判別、呪いによる負傷者への応急処置くらい。送迎車の運転や情報の伝達、負傷者の救出、遺体の回収が主な仕事です。

ここで言う「帳」とは、()()な戦いになることの多い除霊場面を、非術者(一般人)の目に()さぬよう、外部からの視線を遮る()()を指します。

『呪術廻戦』の単行本第1巻では、補助監督が「闇より出でて闇より黒く、そのれをぎ祓え」と呪文を唱えるとともに、黒い帳が下りて、対象区域で何が起きているのか、周囲から一切見えないよう、聞こえないようにしています。

呪術師になれるかどうかは、持って生まれた素養が“ものをいう”ため、呪術師界は常に人手不足に悩まされています。そのため、現役の生徒が除霊に駆り出されることも多く、その際には無駄死にを避ける意味から、各人の実力が考慮されます。

下は4級から、上は特級までレベル分けされているのですが、同様の等級分けは祓の対象である呪いに対しても行われ、『呪術廻戦』の単行本第1巻では「通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合」として、呪いの強さを次のように解説しています。

  • 特級:クラスター弾での爆撃でトントン
  • 1級:(準1級)戦車でも心細い
  • 2級:(準2級)散弾銃でギリギリ
  • 3級:拳銃があればまあ安心
  • 4級:木製バットで余裕

つまり、2級の呪いを祓うためには、戦車並みの戦闘力を有する1級以上の呪術師が必要なわけで、呪術高専の生徒たちには、そのレベルにまで達することが期待され、理論学習に加え、過酷な実地研修が課せられているのです。

日本史上で呪術高専に類する組織といえば、701年制定の大宝律令に基づき、中務省という中央省庁の管下にあった「陰陽寮」をおいて他にありません。

▲安倍晴明の像(晴明神社/京都市上京区晴明町) 出典:PIXTA