山本由伸のドジャースへの移籍が決まったことで、次に注目が集まる日本人選手と言えば、DeNAからポスティングシステムでのメジャー移籍を目指している今永昇太だ。いくつかの球団と交渉をしていて決着間近という報道があるが、ここでは大型トレードでフアン・ソトを獲得したニューヨーク・ヤンキースの可能性を考えてみたい。

強打者・ソトの補強で厚みを増したヤンキースの野手陣

25歳にして、すでに殿堂入りコースを順調に歩んでいるドミニカ共和国出身の左打ち外野手、フアン・ソト選手。

2018年に19歳の若さでデビューを果たし、「6年間で通算ホームラン160本、OPS .946(リーグ平均より+57%)」と打者・大谷翔平(通算6年でホームラン171本、2021-23年のOPS.964)を追随する成績を残しています。

怪我も少なく、ハイレベルかつ継続的に試合に出場できているため、勝利貢献を表すWARでも「28.4/28.6」(Baseball Reference社 / Fangraphs社算出)と、リーグでもトップクラス。殿堂入り選手の平均WARが60勝前後とすると、25歳で早くもその半分弱を積み上げている点も、まさに“怪物級”と言えるでしょう。

そしてスター性も兼ね備えている点も見逃せません。2019年に21歳という若さでプレイオフに初進出を果たすと、「17試合で5ホームラン、OPS .927」と大活躍。当時所属していたワシントン・ナショナルズをワールドシリーズ優勝へ導きました。こんな豪華すぎる経歴もスーパースターの証と言えるでしょう。

そんなソト選手ですが、現地12月6日に、ニューヨーク・ヤンキースがブロックバスター・トレードでサンディエゴ・パドレスから獲得を発表。2022年に62ホームランを放ちMVPを獲得したアーロン・ジャッジ選手と連なる強力打線は、相手ピッチャーにおおいに恐怖を与えることでしょう。昨季ア・リーグ4位と低迷してしまったヤンキースにとって、念願のスーパースター選手の補強となりました。

昔は金にモノを言わせる金満球団として大物選手を次々と獲得。今回も年俸3000万ドルを超えるソトの獲得から“悪の帝国”ヤンキース復活の兆しを感じさせます。

じつは殿堂入り級の打者をトレードで獲得するのは、2003年オフにアレックス・ロドリゲス(通称Aロッド)選手をテキサス・レンジャースから引き取って以来です。

その後、Aロッドはヤンキースで2度のMVP獲得し、2009年には悲願のワールドシリーズ優勝にも大貢献。契約後半こそ成績下降やステロイド使用による出場停止、イメージ悪化といったネガティブな要素も多く残してしまったものの、チャンピオンリングをもたらしたその貢献ぶりには議論の余地はないでしょう。

ヤンキース・今永昇太 誕生の可能性は…?

次に注目されるのが、復活途上である“悪の帝国”の先発投手の補強です。ターゲットの最有力が山本由伸選手であることは明白でしたが、ドジャースと契約をしたため獲得を逃してしまいました。

ただ、ヤンキースも最終的も3億ドルを提示。年俸ベースやオプトアウト(契約破棄条項)を前提とした平均額ではドジャースを上回っていたとされており、山本選手の補強への本気度合いは本物でした(ドジャースの12年という契約年数と、サインボーナスが強烈すぎました)。

とはいえ、先に述べたソト選手の契約がこの1年だけである点を鑑みると、今季にかけるのはごく当たり前。であるならば、山本選手を逃した今、“悪の帝国”が真に復活をするためには、先発投手の補強が必要不可欠であるのは間違いないでしょう。

ここで名前が上がるのが、同じくポスティングにてNPBよりMLB移籍を目指している今永昇太選手(横浜DeNAベイスターズ)。山本選手に争奪戦に敗れた場合には、ヤンキースが獲得に興味を示すと言われてきました。

▲昨年のWBC決勝の先発を託された今永昇太 写真:USA TODAY Sports / ロイター / アフロ

NPBでの8年間の実績は言うまでもなく、貴重な左腕であることやWBCでの活躍、なにより“スピンレート指標の良さ”という目には見えないポテンシャルの高さも踏まえると、お買い得案件となる可能性も大いにあるとされています。

WARの計算でも知られるFangraphs社が出す成績予測では「投球回148回で防御率3.84、150三振、39四球」と相応の成績を残すとされており、その期待値は高いと言えるでしょう。

ちなみに、このFangraphs社、山本選手の成績は投球回こそ184回と多いものの、「防御率3.97、200三振、50四球」と予測。もちろん両者の予測値を単純比較はできないものの、決して劣ることのない成績を残すとされており、3億2500万ドルの契約を勝ち取った山本選手に引けを取らないポテンシャルの持ち主では……と、にわかに期待が高まっています。

また、近年のFA市場が加熱・高騰(インフレ)傾向にあるものの、総額が1億ドル前後、平均年俸が2000万ドル前後に落ち着く……つまり山本選手の1/3以下の金額で獲得をできる可能性を踏まえると、今永選手に賭けてみたくなる関係者やファンの気持ちもわかります。

今永選手サイドとしても、ローテ4~5番手で大きなプレッシャーを感じずにMLBへの適応をはかれるゆとり、球界の大エースであるゲリット・コール選手との投球談義、投手の魔改造に定評のあるマット・ブレイク投手コーチから学べる点、また薄れつつあるもののヤンキースが持つ伝統の魅力、といったポジティブ要素もあるでしょう。

もちろん懸念がないわけではありません。今永選手のフライボール率の高さが(特にライトが狭い本拠地ヤンキーススタジアムでは)不利に働く懸念はあり、一部報道ではこれを理由にヤンキースが獲得を見送る可能性があるとされています。それでも、それ以上のポテンシャルを買って獲得に乗り出すかが注目ポイントとなります。

山本選手のドジャース移籍によって、閉ざされたと思っていた3年ぶりの日本人選手の所属(田中将大選手以来)は実現するのか? 今永選手をラブコールで振り向かせることは可能か? その動向にヤンキースファンの注目が止みませんが、その決着は間もなくとみられています。