FA戦線で与えられた「先発三大目玉」という高い評価
11月21日、オリックス・バファローズが山本由伸選手のポスティング申請を行い、45日間のメジャー移籍交渉が解禁されました。山本選手の代理人を務めるジョエル・ウルフ氏が取材で「10~15球団から連絡があった」旨を明らかにしており、早くから争奪戦が白熱していることが見られます。
ポスティング前からも大いに注目を浴びていた選手であり、9月9日に千葉ロッテマリーンズ相手にノーヒットノーランを達成した際には、ニューヨーク・ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMがバックネット裏で視察をしていたり、シーズン前にはロサンゼルス・ドジャースの編成本部長のアンドリュー・フリードマン氏が、侍ジャパンの宮崎キャンプにて目撃されていたり……と、兼ねてから多くのチームが獲得調査を進めてきていました。
また多くのメディアにて「今季FA No.1投手」として取り上げられ、球団関係者のみならず現地ファンからも多くの注目を集めていました。選手の移籍情報などで知られる米メディア『MLB Trade Rumors』(以降、MLBTR)のオフシーズン前ランキングでは、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手、シカゴ・カブスのコーディ・ベリンジャー選手に次ぐ3位に位置づけられ、9年2億2,500万ドル(≒336億円)の超大型契約締結が予想されました。
他メディアでも「7年以上2億ドル規模の契約は固い」とされているものの、現状のFA戦線の動向を鑑みて、「8~9年では、もはや獲得には足りないのでは」と筆者は考えます。
その最大の要因は、先発三大目玉の一角であるアーロン・ノラ選手が11月19日(現地時間)に、フィラデルフィア・フィリーズと7年1億7,200万ドルの大型契約による合意が報道されたこと。オフシーズン早々にして、山本選手と23年ナショナル・リーグのサイ・ヤング賞受賞者であるブレイク・スネル選手のみが残される形になり、エース級先発投手の需給バランスが大きく動きました(大谷翔平選手は“二刀流”という特別な存在なので、三大目玉には含まれていません)。
さらに詳しい報道によると、ノラ選手は他球団からの高額なオファーを蹴ったうえで、フィリーズと再契約を選んだとされていますが、そのフィリーズとの契約すら業界予想(MLBTRでは6年1億5,000万ドル)を大きく上回っていることが明らかになりました。
この現実を踏まえると、山本選手も業界予想を上回る契約、つまり「10年超・2億5,000万ドル超といった規模感が必要となってくるのでは」と、筆者は自身の予想を上方修正しています。ちなみにMLBにおける史上最長の投手契約は、ゲリット・コール選手が2019年にヤンキースとのFA交渉で勝ち取った9年3億2,400万ドル(オプション行使次第では10年へ延長可)です。
投手であるにもかかわらず長期契約が予想される理由
怪我のリスクが高い投手への長期契約は大きいリスクとされるなかで、山本選手がMLB初となる10年契約(オプション契約は除く)を獲得できる可能性があるのはなぜか?
その最大の要因は25歳という若さ。そもそもMLB選手の平均デビュー年齢が25歳前後とされているなか、すでにNPBとWBCで実績を積み重ねた25歳の選手を、FAで獲得できる機会は極めて稀有だからです。
近年で最も近い事例として、2018年オフにブライス・ハーパー選手(現フィラデルフィア・フィリーズ)とマニー・マチャド選手(現サンディエゴ・パドレス)が、それぞれ26歳という異例の若さでFAとなり、ハーパー選手は13年3億3,000万ドル、マチャド選手は10年3億ドルという超大型契約の締結が挙げられます。
ただ、両名とも野手であり、投手でこれだけ若くFAになる例はほぼありません。球団にとって若ければ若いほど長期契約のリスクは低く、25歳の山本選手と10年契約を締結した場合でも、契約終了時の年齢は35歳、まだまだ活躍が期待できる年齢といえるでしょう(もちろん選手個々の故障リスクなど差はありますが)。
そして、もう一つは年俸抑制と引き換えにした契約の超長期化トレンド。前述のハーパー選手の13年契約が原点であり、主にハーパー選手が所属するフィリーズおよびマチャド選手が所属するパドレスが中心となった動きです。
そのほかの代表例としては、21年シーズン前にパドレスとフェルナンド・タティスJr.選手が締結した14年3億4,000万ドル契約や、22年シーズン途中にシアトル・マリナーズとフリオ・ロドリゲス選手が締結した13年2億1,000万ドル契約(オプション行使次第では最長18年4億7,000万ドル)といった破格の契約が挙げられます。
直近ではフィリーズが昨年獲得したトレイ・ターナー選手の11年3億ドル契約や、パドレスが同年獲得したザンダー・ボーガツ選手の11年2億8,000万ドル契約が挙がり、このトレンドは今後も続く動きと言えるでしょう。