ソロアルバム制作時の心の支えにもなってくれた

――天下一品のラーメンは、SUGIZOさんの音楽にどのような影響を与えていますか?

SUGIZO:LUNA SEAが一旦活動を休止した1997年に製作したソロアルバム『TRUTH?』は、1年ほどイギリスに移住して、ミュージシャン仲間と一緒に天下一品のラーメンを食べながら制作した作品なんです。

毎月、ロンドンにやってくるマネージャーに、日本から天下一品の持ち帰りセットを大量に持ってきてもらって、スーツケース一杯に詰め込まれたラーメンを制作の合間に食べていました。

――スゴい話ですね!(笑)

SUGIZO:慣れ親しんだ天下一品の味には、どこか地元に帰ったときのような安心感があって、約1年間の異国の生活でも心の支えになっていました。

――個人的な話で恐縮ですが、この『TRUTH?』が洋楽を知る入り口になった作品だったので、その作品の成り立ちに天下一品が関わっていると思うと感慨深いです。

SUGIZO:ありがとうございます、とても光栄です。今振り返ってみると、この『TRUTH?』は僕のキャリア初のソロアルバムでしたし、天下一品は“アーティストSUGIZO”としての始まりを支えてくれた味なのかなと思います。

――昨年は『MOTHER』(1994年)と『STYLE』(1996年)のセルフカバーアルバムを発表されましたが、レコーディングで印象に残っているグルメはありますか?

SUGIZO:1990年代に2枚のアルバムを作ったときは、僕らの先輩にあたるBUCK-TICKやTHE MAD CAPSULE MARKETSも使っていて、“伝説のスタジオ”と言われていた中野のサウンドスカイでレコーディングをしました。

製作期間中は、出前を頼んでみんなで一緒に食べることも多かったのですが、そのなかで特に印象に残っているのが、食堂伊賀の定食です。「ナスゴマみそ炒め定食」「ピーマンとウインナーの炒め定食」「ニラ玉定食」を食べることが多かったかな。当時発表したアルバムは、「食堂伊賀のメニューで作られた」と言っても過言ではありません。

そして、昨年発表したセルフカバーアルバムは、二子玉川にあるStudio Sound DALIでレコーディングをしていて、近所にある龍園という中華屋さんの「麻婆ナス」や「カニ玉」を食べていました。お店は駅から少し遠い場所にありますが、“昔ながらの街中華屋さん”といった感じの店構えも印象的なので、皆さんにもぜひ食べてみてほしいです。

目の前の一瞬に全力を懸けて生きていきたい

――LUNA SEAの話もお伺いしたいんですが、ファンの人気が高いアルバムをセルフカバーしようと思ったのはなぜですか?

SUGIZO:2018年に僕らのメジャーデビューアルバムの『IMAGE』と、2枚目の『EDEN』の再現公演をやったときに予想外の好感触が得られて、それをきっかけに話が盛り上がって、『MOTHER』と『STYLE』の再現ツアーや、そこに付随してセルフカバーアルバムの制作が決まりました。

これまでの僕は、昔の曲を聴き直すことにあまり興味がありませんでしたが、過去の自分とじっくり向き合ってみると、当時の自分では十分に表現できなかった部分を補ったり、現代のサウンドにブラッシュアップできる。新作とは違う形で、自分の表現欲を満たせることに気づいたことが大きかったかもしれません。

▲LUNA SEA Photo by Keiko Tanabe

――前作の『CROSS』(2019年)に続いて、U2のプロデューサーとしても知られているスティーヴ・リリーホワイト氏を起用されていますね。

SUGIZO:前作の『CROSS』で、初めて外部プロデューサーを招いたんですけど、僕らの音楽制作にとって大きな意味がありましたし、多くのことを学びました。今回は、すでに楽曲ができていることもあって、スティーヴにはエンジニアやミックスをお願いしましたが、彼が制作をサポートしてくれたことも、セルフカバーアルバムを作る意欲につながっています。

――当時のLUNA SEAは、「セルフプロデュースに定評がある」と言われていたと思うのですが、当時の楽曲に対してどのような印象を感じていますか?

SUGIZO:インディーズで発売した『LUNA SEA』から3枚目の『EDEN』までの作品は、演奏技術や過剰なアレンジなどの面で耳も当てられないと思っていて……。今となっては羞恥心や後悔の気持ちが強いです。自分たちのアイデアがとめどなく浮かんできて、作りたい音楽のビジョンもはっきりしていましたし、“自分たちの音を大人たちには触らせない!”という若さゆえの意固地な部分もあったんですよね。

でも、いま思うと、レコーディングや音楽を表現する手法を的確に指導してくれるサウンドプロデューサーが必要だったんです。僕らの大きな失敗だったと思っています。

一方では、デビュー当時から生み出してきた楽曲や根本にあるアイデア、そして音楽的な素養は本当に素晴らしいと思っていて。“アルバムを作った25歳の自分たちをハグしてあげたい”という気持ちも同時に込み上げてきましたね。

――2024年はLUNA SEAの結成35周年を記念した全国ツアー開催も決まりました。

SUGIZO:昨年の『DUAL AREANA TOUR 2023』は僕が腰、ベースのJは右足を骨折しながらのツアーだったので、本当にギリギリの毎日を過ごしていました。でも、満身創痍の体とは対照的に、“全身全霊で表現をする”ことに対して僕は絶対的な強いこだわりがあって、年齢を重ねても余裕など微塵もなく、若い頃と同じく、もしくはそれ以上に勉強したいことや目標が次々と湧き上がってきます。

今はLUNA SEAに加えて、X JAPANやTHE LAST ROCKSTARS、そしてソロの活動も、さらに最も理想の表現形態であるジャズロックバンドSHAGもありますから、“もう少しゆっくりしたい”という気持ちはありつつも、年を追うごとに忙しくなっていくのも仕方がないことかなと思いますし、人生の一番忙しい日々を更新していたら、あっという間に50代を迎えていたという感じです。

▲THE LAST ROCKSTARS Photo by Keiko Tanabe

――その熱意の根源はどのあたりにあるのでしょうか?

SUGIZO:昨年は僕のかけがえのないミュージシャン仲間、バンドメンバーが多く旅立ってしまい、深い悲しみと共に“自分もそういう年齢になったんだな……”と感じさせられた1年でした。

自分の未来が、今まで歩んだ過去よりも長くないことは間違いないし、永遠がないこともわかっているからこそ、“目の前の一瞬に全力を懸けたい”という思いが、日を追うごとに強くなってきています。

仮に、僕が突然この世を去ることになってしまったときに、クオリティの低い作品しか残ってなかったら、死んでも死にきれない。だから、いつ最後の瞬間を迎えても後悔がないように、日々のステージに全身全霊で向き合っていますし、“最高の表現を続けていきたい”っていう思いにもつながっているんだと思います。

(取材:白鳥 純一)


プロフィール
 
SUGIZO
作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARSのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、更に映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。2020年、サイケデリック・ジャムバンド SHAGを12年振りに再始動。2022年、環境への配慮と高い美意識とを両立させた、ロックなエシカル・ファッションを提唱する自身のアパレル・ブランド「THE ONENESS」を始動。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティヴィストとして知られる。X(旧Twitter):@SUGIZOofficial、Instagram:@sugizo_official