人力舎に所属後、サンミュージックに復帰

サンミュージックのお笑い班が閉鎖となり、プロダクション人力舎に移籍。リッキーが25歳から36歳の12年間にあたる。ここで彼の人生に大きな出来事が訪れる。

「1992年に人力舎の養成所・スクールJCAができて主任講師を務め、『バカ爆走』という事務所ライブが始まって、その第1回の日に僕の子どもが生まれたんです。

ずっと前に、上岡龍太郎師匠がダウンタウンさんに“弟子を持ったほうがいい”ってアドバイスしてました。というのは、弟子を見て育てることが、自分を見直してさらなる成長につながるから。そういう意味では、この年、僕にはスクールの生徒と子どもという、2つの育てるべき対象ができたことになります」

名実ともにリッキーは“父”となったわけだ。ブッチャーブラザーズは、5期まで「スクールJCA」の主任講師を務め、アンジャッシュ、東京03飯塚・豊本、アンタッチャブル、ドランクドラゴンらを指導。

さらには、主催しているライブの門戸を開き、他事務所の芸人たちも幅広く受け入れてきた。そうして、1997年、お笑いタレント育成を再び試みようとしていたサンミュージックに復帰することになる。まさに、ここが、今につながる土壇場である。

「復帰にあたって、僕とぶっちゃあさんは相澤(秀禎)会長と話をしたんです。僕らをお笑い班のプロデューサー的な立場で所属させてほしいと。“芸人は売れるまでに時間がかかる、15~16歳のアイドルとは違うのだ”ということを、実際のブレイク芸人たちの歴史をひもといて熱弁したんです。

そのとき、人力舎から4人タレントがついてきていたんですが、“5年は売れなくても一切文句を言わないでいただけるなら、戻ってきてサンミュージックのお笑い育成をやります”と。逆を言うと、自分でそう言った以上、結果を出せなければ責任を取るしかない」

そうして約束である5年の月日は瞬く間にすぎた。が、誰かが売れる気配はまったくなかった。大見得を切った以上、結果を出せなければお笑い班は解散、結果的にブッチャーブラザーズを含め、その当時、所属していた芸人全員が路頭に迷うことになる。

「さすがに焦りました。ぶっちゃあさんと顔を見合わせながら“謝って辞めさせてもらおうか”って相談したんですけど、“何か言われるまで黙っておこう”と(笑)」

▲サンミュージックの稽古場にはスターの写真が並ぶ

クビ寸前を救ってくれた大ブレイクしたピン芸人

まさに土壇場。自分自身の子ども、芸人として育ててきた後輩という子ども、たくさんの子どもたちを抱えるリッキーは気が気でなかった。すると、お笑いの神様はブッチャーブラザーズに微笑んだのだ。

「いつ言われてもおかしくない……そんな日々を過ごすなかで、5年7か月ぐらいでダンディ坂野が大ブレイクしたんです。ぶっちゃあさんと二人で“ホント、あのとき言いに行かなくてよかったな! 半年ガマンしてもらえて助かったー!”って喜びました(笑)」

ダンディ坂野も人力舎時代の教え子で、弟子的な存在だった。そして、ダンディのブレイク後、カンニングが続いた。サンミュージックのお笑いは消滅することなく、かもめんたる、小島よしお、メイプル超合金、髭男爵、鳥居みゆき、ぺこぱ、ママタルトなどなど、数多くの人気者たちが現在も活躍している。

リッキーは、サンミュージックの芸人たちをどのように指導してきたのだろうか。

「ぶっちゃあさんの指導も共通してるんですが、大事なのは“よりわかりやすく伝える”ということ。そうすると、必然的に短くて大きいアクションになります。サンミュージックの芸人が“一発屋”と呼ばれることが多いのは、そこが認知されてのことだと思ってるんです(笑)。

僕たちは、伝達能力の高い低いによって、同じネタ、同じ演技であっても、受け止められ方は全然変わってくると考えています。例えば、ここに熱いものがあるとしますよね」

そう言って、取材陣に実演してくれるリッキー。その熱いものに手が触れて「熱ッ!」とリアクションする。ここで触れた手をピクッと引くのか、腕ごと大きく背後まで振るのか、それによっても全然違うと解説してくれた。

「腕ごと大きく振ると……そしたら、この手が相方に当たって“痛ッ!”ってなる。新たな展開が生まれましたよね。要するに、“見る相手のことを考えているかどうか”なんですよ。伝わらないと何も始まらないんです」

その根底には、リッキーとぶっちゃあが東映京都の俳優養成所で繰り返していた、“相手にどのように見せるか”という訓練があるように思えた。そして、それは40年の時を経て、彼の中で「愛」という言葉として実を結んだ。

「お笑いなんて、相手があってこそ成立する仕事で、見てもらってナンボですからね。それを僕は愛と呼んでいるんです。“相手がいるなら、そこに愛がないとアカンよ”というのが、僕から後輩に伝えたいことです」