「感覚過敏」という言葉をご存知だろうか。感覚過敏とは、人が日常で当たり前に触れるものだけでなく、音・光などに対しても過敏になる症状のことである。それとは逆に、光や音などをはじめとする特定の刺激に対する反応が低くなる「感覚鈍麻」と呼ばれる症状に悩む方もいる。

自らも感覚過敏を持ちながら、感覚覚過の人が暮らしやすい社会を目指して「感覚過敏研究所」を立ち上げ、12歳で立ち上げた会社の社長も務める現役高校生の加藤路瑛(じえい)さん。「感覚過敏の人も暮らしやすい社会を」という考えのもと、周知や啓蒙活動のほか、実際に感覚過敏の方々が参加できるコミュニティ作りを進める加藤さんに、ニュースクランチが近年の活動や今後の目標についてインタビューした。

オンラインが普及して生活がしやすくなった

――加藤さんの書籍や活動を拝見させていただいて、こんなにツラいことがあるのか……と恥ずかしながら初めて知りました。いま現在、感覚過敏や感覚鈍麻の学生の方々は、生きやすい世の中になっていると思いますか?

加藤路瑛(以下、加藤):「感覚過敏研究所」のコミュニティなどで話を聞く限りでは、私が感覚過敏研究所を立ち上げた2020年頃よりは、理解が進んでいるように感じます。現在では感覚過敏への認知が広がってきて、教育委員会の方も動いてくれているんです。おかげで、学校から講演の依頼が少しずつ増えてきました。

――それはとても良いことですね。感覚過敏の症状を持つ方からすると、コロナ禍以降、オンラインが普及して生活がしやすくなっている部分があるんじゃないか、と感じました。

加藤:たしかに、そういう側面はあるかもしれません。以前はカフェでミーティングをよくしていたのですが、やはり匂いがツラく、体調を崩してしまうこともありました。今はオンラインでの対話が当たり前になったおかげで、生活がしやすくなったことを実感しています。

――感覚過敏と感覚鈍麻の感じ方を描いた『カビンくんとドンマちゃん』(小社刊)の発売から数か月経ちました。加藤さんのもとには、どのようなリアクションが届いていますか?

加藤:この本を読んで、初めて感覚過敏のことを知れたという声がやはり多く、うれしく思っています。あとは、講演や勉強会をおこなったときに、感覚過敏の子を持つ親御さんから感謝されることが増えました。今まで症状についてまったく知らず、ようやく子どもの感情に触れられた、との言葉をもらえるようになりましたね。

さらに、書籍の舞台が中学校だったこともあり、教師の方に刺さった部分も大きかったようです。これまで教えてきた生徒たちのなかにも、いま思えば感覚過敏の子がいたかもしれないと、当時を悔やむ声も聞こえてきました。そしてこれからは、より注意して仕事をしていきたいとの前向きな感想をもらうことができました。

――多くのリアクションを受けて、加藤さん自身はどのような心境の変化がありましたか?

加藤:今よりもっと、感覚過敏を世の中に知ってもらう活動を頑張りたいと思うようになりました。感覚過敏の課題解決をしていくうえで、一番の問題点は「症状が目に見えない」ことなんです。

――たしかに、感覚過敏という言葉を知る前では、周りでそうした症状を訴えてる人がいても、適切に寄り添えていなかったと感じます。

加藤:ですよね。だからこそ、本の発信を通して、感覚過敏のことを少しでも理解できた声をいただくと、 あらためて書いて良かったなと思います。こうして発信を精力的に続けてはいますが、それでも感覚過敏はまだまだ知られていないのが現実です。この目に見えない症状を伝えていくためにも、これからも努力をしていきたいです。

制服が痛い感覚も理解してもらえない

――この本では、刺激に対する反応が鈍くなる「感覚鈍麻」をもつキャラクター・ドンマちゃんが物語を深めています。感覚鈍麻ではない加藤さん自身が、どのような思いでドンマちゃんを描くに至ったのでしょうか?

加藤:私自身、感覚鈍麻の自覚症状はないため、これまで感覚鈍麻の症状について触れてはきませんでした。しかし、鈍麻は過敏より認知がされておらず、問題を取り上げる人が少ない現状に気づいたんです。やはり、知ってもらうということが一番だと思うんです。書籍であれば、私でも鈍麻について発信できると思い、感覚鈍麻の方にも聞き取りなどをして、ドンマちゃんが誕生しました。

――いま振り返って、ご両親や周りに対し、本当はこうしてほしかったと思うことはありますか?

加藤:正直に言って、 あまり強くこうしてほしかったと思うことはありません。そもそも、当時は親や先生どころか、私自身も感覚過敏のことを知らなかったんです。たしかに、給食を好き嫌いで食べてないと思われることもありましたし、制服が痛い感覚も理解してもらえませんでした。でも、それは感覚過敏のことを知らないからで、いま思い返してみても仕方ないことだったんです。

当時、感覚過敏という症状を、私も含め誰もが知っていたら、少しは生活が変わっていたのかなとは思います。

――加藤さんご自身の活動で、直近の目標を教えてください。

加藤:私自身の大きな目標は「感覚過敏という言葉も不要なぐらい、感覚の多様性が認め合える社会を目指す」ことです。今は、どのようなものか伝わらないから、感覚過敏って言葉を使わざるを得ない状態だと思うんです。でも、ひとつの個性として感覚過敏が扱われるようになれば、大げさな言葉として取り上げる必要はありません。そんな社会を作る第一歩として『カビンくんとドンマちゃん』の出版をしたところが大きいですね。

感覚過敏がなくても、誰しも苦手な音や嫌いな匂いはあると思います。そういったものを受け入れながら、各々が好きな環境で学べる世界を作っていきたいです。学校に限らずオフィスなどでも、自分が集中できる環境をカスタマイズできる社会になれば、誰もがもっと生きやすくなるのではと感じています。

――それでは最後に、感覚過敏研究所の所長としての目標も教えてください。

加藤:私自身が、感覚過敏のメカニズムを解明したいと思っています。それだけでなく、自由に感覚の過敏さをコントロールし、才能として活かせるようにしたい。少しの匂いの違いがわかったり、細かな味の変化がわかったりとかして、過敏さをポジティブなものに変換できる世の中を目指していくつもりです。


プロフィール
 
加藤 路瑛(かとう・じえい)
2006年生まれ。12歳のときに起業し、株式会社クリスタルロード取締役社長に就任。メディア運営やクラウドファンディング事業に取り組み、現在は個人の活動にスポンサーをマッチングさせる応援ファンディング「Challenge Fun」を運営し、応援経済を作る社会実験に力を入れている。「今」をあきらめない生き方をテーマにした講演や小中高生の起業に関する講演やセミナーも行なっている。X(旧Twitter):@crystalroad2006