新しい“ショートショート”として、X(旧Twitter)の文字制限である140字以内で完結する「140字小説」。このジャンルで大きな支持を得ているのが作家の方丈海だ。ベールに包まれた方丈海という人間に迫るべく、ニュースクランチ編集部がインタビューを敢行した。

『ハリーポッター』と『クビキリサイクル』

――方丈さんは小さい頃から本が好きだったんですか?

方丈 授業とか課題とかを除いて、本に触れたのは中学校に入ってからなんです。それまでは運動とTVゲームが好きな子どもでした。今でも時間があるときはランニングしていますが、体を動かしてないと落ち着かないタイプでしたね。

――そうだったんですね。中学生で本に触れたキッカケは?

方丈 中学1年生のときに、お小遣いで『ハリーポッター』の1作目、賢者の石を買ったんです。まだ映画化される前だったんですが、これが自分で買った1冊目で本当に良かったと思ってます。敷居が低いのに、すごくカタルシスがあって。

日常的に読書をするようになったのは、大学に入ってからですね。中学時代の友達に作家を目指していた子がいて、その友達が勧めてくれた作品を読むようになりました。と言っても、自分は理工学部にいたので、作家とは真逆の環境ではありました。

――ちなみに、その頃に勧められて読んで印象に残っている作家さんは?

方丈 西尾維新先生ですね。『クビキリサイクル』です。その頃からずっと現役で活躍されてますし、あとは橋渡し的な役割も担ってらっしゃるのが素晴らしいなと思います。漫画の原作もやられてますし、アニメ好きの人が小説の面白さに気づくキッカケが西尾維新先生、というのは多いんじゃないでしょうか。

――その頃の将来の夢はなんだったんですか?

方丈 理工学部を選んだので、漠然とIT系か情報系に進みたいとは考えていました。小さい頃から数字が好きで、理系に進んでいくことに疑問はなくて、実際に就職したのもITの会社でしたね。

――そこから作家の道に進むのは、どのようなキッカケがあったんですか?

方丈 高校2年生くらいの話に戻るんですけど、そこで二次創作の小説に出合うんです。それらを読み漁る日々がありまして、それで“自分でも書いてみたいな”と思って、書き上げていったんです。長編ではなく、短編くらいの分量ですけど。

――すでに作家としての第一歩を踏み出していたんですね。書き上げたものは、どなたかに見せていたんですか?

方丈 友人知人には……絶対に見せたくなくて(笑)。ネットの掲示板に投稿して、時には賞賛され、時には批判され、一喜一憂してました。でも、良い経験だったなと思います。今こうして作品を発表して経験することを、高校生の時点で経験できていたのは大きかったです。

SNSもnoteも作家として仕事にするための作戦

――ITの会社に就職したとのことでしたが、創作活動は続けていたんですね。

方丈 就職してからも、どこかで「作家になりたい」っていう気持ちを見て見ぬふりする日々が続いていたんです。“これを65歳まで続けていくのか?”と考えたときに、ある本に出合ったんです。phaさんの『ニートの歩き方』という本なんですけど。この本から自由な精神、既存の幸福とは違った新しい幸せを感じ取って、こういう生き方もあっていいんだって勇気づけられました。

――定職を辞めてしまうということは、勇気がいる行動だと思います。

方丈 はい。なので、1年間生活できるだけの蓄えを作ってからでしたね。やっぱ、働かないと死んじゃうんで…(笑)。

――140字小説というフォーマットに行き着いたのは?

方丈 普通に書いたものを出しただけでは、大勢に読んでもらうのは難しいだろう、という考えがあったんです。そして、作家で食べていくのは更に難しい。そう考えたときに、自分はそこに無策で飛び込むのではなく、主食があるなら、前菜のようなものを作ってもいいんじゃないかと思ったんですね。小説って敷居が高いものなので、極限まで敷居を下げたかったんです。

――140字小説というフォーマットは他の方も使っていますが、方丈さんが支持を得ている理由について、自己分析などされたことはありますか?

方丈 これはあくまでも想像ですし、自分で言うのも少し恥ずかしいんですが……プロ意識じゃないかなと思います。賃金が発生していなくても、お金をもらっているつもりで書く。今も昔も、そのくらいの気持ちでやっています。

――覚悟のようなものでしょうか?

方丈 そうかもしれません。SNSもnoteも、全て作家として仕事にするための作戦としてやっていることですし、そこで作品の反応を見たり、実際に世に出していいものかどうかを判断しています。そのうえで作品を寝かすこともありますし、実際には発表した作品の何倍も書いています。X(旧Twitter)では、わかりやすくリポスト、お気に入りが出ますし、リアルタイムで意見や感想がもらえるので勉強になりますね。

――二次創作をやっていた頃と現在、明確に違うところはありますか?

方丈 先ほどのリアクションの話にもつながりますが、二次創作をやっていた頃はどんなリアクションでも、リアクションがあることがうれしかったんですけど、今は反応を信じすぎちゃダメだなと思ってます。そこが明確に違うところですね。

――それはどうして変わったんですか?

方丈 最初に反応をしてくれるのはフォロワーさんなんですけど、基本的に悪いことを言わないんです。もちろん、反応はとてもありがたいですが、その褒めを真に受けすぎると将来はない。だから、見えない意見こそ意識しないといけないなと思ってます。

実際に否定的な意見を目の当たりにするのは苦手なんですが(笑)、そこを想像することが大事だと思っていて。「こう思ってる人もいるんだろうな」とイメージして、自分で自分をダメ出しする。そうして自分をブラッシュアップしています。

――とても合理的で精神衛生的にも良い方法ですね。

方丈 はい、やはり他人の評価に依存しすぎるとよくないと思ったので。その代わり、良い発想が出たときは、自分で自分を褒めてあげるようにしています。

――創作において意識して「禁じ手」にしていることはありますか?

方丈 今、意識しているのは、二次創作的なことはしないことですね。例えば、サザエさん、ドラえもんなどを登場させない。知っている方が多いのは強みですが、それでも知らない人はいるし、時代が進んだら通じなくなる可能性もある。と言いつつ、時々、二次創作的な作品も作ってしまいますが(笑)。あと下ネタですかね。初期はいくつかあると思うんですが……最近使わなくなったのは、ウケたときはいいけど、スベったら恥ずかしいって気づいたんです(笑)。