下剋上の匂いをたどり町田vs筑波大の試合へ

まだ高校生にも天皇杯挑戦権があった頃、市立船橋高校が当時のJ1王者横浜F・マリノスを相手に、10人で2-2と互角以上の戦いぶりで、PK戦にまで持ち込んだ(しかもイチフナのCB、増嶋選手の退場はセンターライン付近で倒れた選手に対して、ダイブのジャッジをするという酷い誤審であった)激戦。あの試合以降、僕は天皇杯の大物喰いが大好物になりました。

というわけで、毎年のことながら今年も下剋上の匂いがする会場を予想して行ってまいりました。

FC町田ゼルビア vs 筑波大学(試合会場:町田GIONスタジアム)!!

経験上、下位カテゴリーのチームが健闘したほうがテンションが上がってしまうことは自負しまくっているので、今回は最初から筑波側の応援席に……と思いきや、アウェー側指定席がない。「ほんなら、もう飛び込んだれ!!」と筑波大学ゴール裏へ。学生の熱量に青春を感じます。

その熱を伝えたいところですが、この試合が勝敗とは別のところで後味の悪い話題になってしまってるので、まずはこの問題について私見を。

僕はゼルビアのサッカーに対してポジティブな印象を抱いており、それは過去のコラムにも書いてます。

ざっくりと言うと

・勝つ確率を上げるプレーを抜け目なく徹底している
・あの経済規模・選手個々の力でJ1首位にいるために最善の戦いをしている
・町田の選手のプレーに相手を怪我させようという意図を感じたことはない

だからこそ、僕は町田戦の筑波大にも同様のポジティブな印象を抱きました。

ゴール裏から見ると、どのシーンが悪質かは正直わかりかねる部分がありますが、格上との対戦においては球際でのためらいは命取りです。

町田の黒田監督いうところの「一流の選手は、激しく行っても怪我させないようギリギリで引くことができる」

これはその通りだとは思いますが、一方でいつも以上にギリギリを追求しないと戦えないのが格上との勝負だと思います。

そして、この日の試合や町田戦に限らず、サッカーでは怪我する確率が数%あるようなギリギリのプレーなんてものは、どの試合でもあり、この日に4人も怪我人が出てしまったのは不運な確率論であり、結果論だと思っています。

怪我人が出たこと、そしてSNSで町田や筑波を叩く投稿があふれているのは、後味が悪く悲しくなります。

黒田監督が試合後、筑波のラフプレーに責任を求めるコメントをしたことは同意しかねますが、J2中位のチームを1年半でJ1首位に持ってくるなんていうのは、世界でもできる監督はなかなかいないと思います。

何でもかんでも町田を悪にする風潮も納得いきません(PKの前にボールを濡らすシーンを切り取って叩くことに関しては、いやいや! どう考えても「なるほど!! その手があったか!!」でしょ!! あれをやるだけでゴロのシュートスピードは上がるし、キーパーの手も滑りやすくなる。なんてアイディアマリーシア!)。

さて、ハイテンションで応援する筑波大応援団に目を細めながら、ハイボールを飲み始める大学サッカーOBおじさんの僕。

▲筑波大学応援団の方々 写真:本人撮影

最初のワンプレーから試合は大きく動きます。

町田の髙橋大悟選手のドリブルが大きくなってクリアされたあと、筑波大の池谷銀姿郎選手を削ってしまったのです。

いろいろなところで言われている話ですが、ここで審判が開始早々という心理が働いたからか、イエローカードは出ず、カードの基準が高くなり、ハードなプレーが増える要因となりました。

とはいえ、審判やったことがある人はわかると思いますが、最初のワンプレーでイエローカードを出すのは難しくもあります。

そこで説得力を失うと、選手とのコミュニケーションが難しくなったり、逆に荒れてカード乱発で「レッドカードが試合を壊した」なんて言われる展開になりかねませんからね。

そんな審判心理をついた町田のファーストプレーは

「相手が大学生でも、一切の油断はないよ」

という意思表示にも見え、僕はテンションが上がりました。

あと、あれは削られた側は痛いけど、たぶん怪我しないくらいの力で削ってると思います。そりゃ、自分や味方がやられたら痛いし、めちゃくちゃ腹は立ちますけどね。

試合前から審判内で、町田は早々にこれをやる可能性があるというのを共有して、対応を事前に決めといたらよかったかもしれないですね。

そして、これで筑波大も(元から入ってたかもですが)スイッチが入った感じがしました。

町田が油断なくJ1と同じ戦い方。それに対し筑波側からも「上等だよ!」という気の強さを感じました。

冷静さを保つのは大事ですが、削られたら血がたぎるということはサッカーではどうしてもありますし、こっちもそれに熱狂してしまう部分はあります。

柏レイソルのチャントのリズムで

「おっおーお! なにがなんでも球際まけるなー!」

と歌う筑波大応援団に後押しされたイレブンは、局面局面ではゼルビアが上手でしたが、巧みにファールを使い試合展開をぶつ切りに。ゼルビアがやりたい展開にさせません。

筑波大のサッカー部には、分析班という相手をデータ分析を担当する部署があり、これがとにかく優秀。

Jリーグで分析を担当していた小井土正亮監督のもと、多くのアナリストを輩出しています。彼らの影の貢献も感じる試合運びです。