アジアでの戦いはピッチ外も過酷

「令和の時代にこんなことあんの?」

そういうことが平気であるのが、西暦で生きているアジアとの戦いです。ないほうがいいに決まっていることが起こる。そのせいで余計に熱狂してしまうのは、僕が馬鹿だからでしょうか?

「ふざけんなよ!」が応援への原動力になるのは不健全かもしれませんが、熱い戦いを2試合、見届けてきました。

遡れば、僕もまだ生まれていない1982年スペインW杯。フランスのゴールに対し「観客席から笛の音が聞こえた!」という理由で抗議するクウェート代表。

最終的には、観客席からピッチに降りてきたクウェートの王族が、審判に何かを耳打ちしてゴールが取り消されるという、とんでもない事件がありました。何を言ったのかは今も謎ですが、怖い……。

時は流れて平成、アジジが車椅子に乗っている姿を日本メディアに見せた翌日、万全のコンディションで試合に出てくるという情報戦を仕掛けてきた、「ジョホールバルの歓喜」前日のイラン代表の作戦はあまりにも有名です。

アウェーを感じるのはピッチ内だけではありません。

日本代表の選手たちには、ホテルで夜中にベルを鳴らされて起こされたり、練習場に釘を撒かれたり、日本では起こり得ない嫌がらせが横行します。

2014年のFCソウルvsサンフレッチェ広島は、審判批判反対派の僕が見ても、意図的に試合を操作したと言えるようなジャッジメント。本筋から逸れるので割愛しますが、闇の深さを感じる試合でした。

浦和レッズレディースがアジアの頂点に立つ!

そして令和6年となった今年、アジア王者を目指して戦った浦和レッズレディースに過去の比ではない、とんでもない仕打ちが待ち受けていました。

AWCC(来季開催予定の女子ACLのプレ大会)に日本王者として出場したレッズレディースは、グループリーグを3連勝で突破。

しかし、仁川現代スチールレッドエンジェルスとの決勝は、AFC(アジアサッカー連盟)から開催しないと一方的に通達されました。

……え? どういうこと!? ここまでやったのに?

しかも、そのときは理由が明かされませんでした。めちゃくちゃです。アジアってチームどころか協会ごとなんかい。舐められたもんですよ。

しかし、レッズレディースの母体は言うまでもなく浦和レッズ。アジアでのトラブルにも慣れています。結局、JFAや相手の仁川や韓国サッカー協会の抗議もあり、ACLから

「やりたいの? 会場用意できる?」

という感じの連絡があり、駒場スタジアムで開催することで一転して決勝戦を開催することになりました。

ちなみに、中止としていた理由は

「男子の決勝と同じ会場でやりたかったが、スポンサーとの折り合いがつかず」

とのこと。そんな理由で決勝までやった大会を中止にすんな!!!

めちゃくちゃ腹が立ちながらも、聖地駒場スタジアムに足を運んできましたよ!

スタジアムにはサポーターを鼓舞する多くの紙が貼られ、ゴール裏からは絶え間なくチャントが響きます。

▲スタジアムに貼られたサポーターを鼓舞する言葉 写真:本人提供

あとは選手がやるだけ。しかし……あれ? 動きが硬いな……。いつもの美しいポゼッションが影を潜めます。

全ポジションOKのチームのレジェンド・安藤梢選手、そして代表でもゲームメーカーを務める楢本光選手を怪我で欠いてるとはいえ、ボールを持った選手が立ち止まって考える時間が長く、少し不安な立ち上がり。

すると13分、簡単なミスでボールを失うと鮮やかなミドルでゴールを許します。

注目されているぞ! いつも通りを世界に魅せつけろ! と見守っていると、前半22分に伊藤美紀選手の完璧すぎる浮き玉のスルーパスから、こちらも完璧なオフザボールで裏をとった清家貴子選手のダイレクトボレーで同点!!

清家選手は、今季WEリーグで10試合連続ゴールを記録したMVP最右翼の大エース。伊藤選手のパスは右足でしたが、柏木陽介ー興梠慎三のホットラインを彷彿とさせるゴラッソでした。

こうなればいつものレッズレディース。4分後にコーナーキックから島田芽依選手がゴールを決めると、最後まで危なげなく勝利をしました。

〇AFC Women’s Club Championship 2023 – Invitational Tournament Final vs 仁川現代製鉄レッドエンジェルズ マッチハイライト

男子が苦しみながら頂点を勝ち獲るのを見てきたので、「あ、アジアってこんな普通に獲れちゃうんだ」と思うくらいには安心感がありました。

そして、駒場に舞う美しき紙吹雪。

▲駒場スタジアムに紙吹雪が舞った 写真:本人提供

レディースのリーグ優勝などではやっているそうですが、僕がこれを見たのは浦和レッズが初めてのシーズン優勝を決めた日、2004年2ndステージの名古屋グランパス戦以来ということで、非常に感慨深いものがありました。

その一方で、表彰式のセットは「本当にアジアの決勝?」というほどにしょぼく、この大会の価値をもっともっとAFCにわからせないといけないんだなと、今後への燃料を心の奥に溜め込みつつ、サポーターが集う店、酒造力で祝勝会をしましたとさ。

▲優勝の横断幕が掲げられていた 写真:本人提供