愛媛県にある済美高校野球部の同期生として出会った高岸宏行とともに、お笑いコンビ・ティモンディとして活躍する前田裕太。

コンビとしてバラエティ番組で活躍しながら、個人としては読書好きが高じて、本の紹介やコラム連載などもしている。そんな前田に改めて本との出合い、人生の指針となっている本についてインタビューした。

▲ティモンディ・前田裕太【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

生きる目的を失ったとき救ってくれた一冊

前田は幼少期から読書は好きだったそうで、『こまったさん』 『わかったさん』シリーズ、『かいけつゾロリ』シリーズ、小学生からは『バーティミアス』シリーズ、『ナルニア国物語』『ダレン・シャン』とかを読んできたという。

しかし、徐々に野球に打ち込むようになり、好きだった読書からも離れ、野球一本の生活に。そんな前田が再び読書を始めたのは高校3年生の夏、野球を引退したとき。

「『絶対に甲子園に行く、絶対にプロ野球選手になるんだ!』って信じて、ずっと野球だけをやってきたので、その道が断たれたとき、燃え尽き症候群じゃないですけど、これから何を目標に生きていったらいいのか、わからなくなってしまって……。

だから一日中、図書館でボーっとしてたんです。本を読むためじゃなくて、ただ涼しいから行ってただけ。でも、司書さんがそんな僕を見て、本をすすめてくれたんです。それから再び、本を読むようになりました」

野球から離れ、生きる目標を失ったときに「本に支えてもらって、なんとか立ち上がれました」という前田。「本からは、どんな自分でも好きになることのヒントをもらった」という。

そのなかでも特に心の支えとなったのが、養子になりたいほど好きだという森見登美彦の代表作『四畳半神話大系』。それまで、野球の成績だけで評価される世界で培った「努力こそが正義。まっすぐ努力して、それに伴った成績を享受するもの」という考え方が大きく変わったという。

「主人公は自分が失敗したときも、“これ誰の責任なんですか?”って思うような性格なんですけど、そう思える人のほうが生きやすいんじゃないかと思ったんです。野球をやっていたときは、エラーをしたら自分のせい。誰かのエラーも周りがカバーするものなんだから、すべて自分の責任だと思えっていう環境だったんです。

だから、結果が出なかったときはすべて自分の責任、チームメイトが打てなくて負けたとしても、その前に何もできなかった自分のせいなんじゃないかって、責任を背負い過ぎていました。でも、自分が楽になれるのなら、ちょっとくらい人のせいにしてもいいのかな、と思えるようになったです。

それにそんな主人公でも、なんか愛おしいというか、嫌いになりきれないんですよ。自分のミスを“これ誰のミス?”と言ったとき、“いや、お前のせいだよ”ってちゃんと周りに言ってもらえるヤツなんです。そんな主人公を通して、僕は自分を好きになるヒントをもらいました」

この作品に出合って変わった考え。野球だけの世界で生きていた当時のことを聞くと、「黒歴史です」と笑った。

「いま思うと本当に恥ずかしいんですけど、あのときは野球をやってるか・やってないかで人を見てましたからね……。それくらい野球だけだったんです。だから、野球がなかったら生きる価値がないと思ってしまった。本に出合って、僕の世界は広がったし、本に支えてもらいました」

当時、本から学んだことは芸人になった今でも前田の支柱になっている。

「たぶん、どんな仕事をしていたとしても、『どんな自分でも好きでいる』ということは、ずっと大切にしてるだろうなって。結果として、人にも優しくなれるんですよ。その人が100パーセントの原因で何かが起きたとしても、そんな思い詰めることないよって思えるんです。

世の中って、神経が図太い人だけが生き残ってくじゃないですか、結局。そんななかでも、この小説は自分の逃げ道を教えてくれた物語だと思うので、 芸人以前に人として生きていくうえで、すごく助けられています」

誰かに教えるときは「楽しんで学ぶこと」を伝える

本に支えられた前田は高校卒業後、大学の法学部に進学。しかし、このときはまだ新たな目標が見つかったわけではなかったという。

「野球部って、みんな授業中に寝るんですよ。本当に誰一人として起きてなくて(笑)。僕も最初は寝てたんですけど、みんな寝てるなか、先生が授業をやっていて、なんかそれを見ていたら申し訳なくなっちゃって……。

それで一応、僕だけでも起きておこうと思い、とりあえず授業を聞いてたら、先生が“これはテストで出すよ!”と言ってくれるんですね。だから、どの教科も僕だけ異常に点数が良くてなっていて……気がついたら、どの大学も指定校推薦で行けるぐらいの成績になってたんです(笑)。

ただ、本当に“出る”って言われたことを覚えていただけなので、グループセッションとか面談が試験にあるところだとボロが出るなと思い、唯一、書類を送るだけだったところを選んだんです。それで法学部に進学しました」

そんな経緯で進学した法学部だったが「学ぶのは楽しかった」そう。

「ラッキーなことに、法学って大学から“みんなよーいドン”でスタートの科目じゃないですか。だから、周りとあんまり差を感じなかったんですよ。自分にも合っていたので、学ぶのも楽しかったし、法学研究サークルみたいなのにも入ったりもしました」

▲生きていくうえで大切なことを本から学んできた

さらに、自分の勉強も兼ねて塾講師としてのアルバイトを開始。現在では、その経験を活かして、先輩芸人であるサンドウィッチマンの富澤たけしやハライチの澤部佑のお子さんの家庭教師を担当している。

「みんな一緒のスタートと言っても、ある程度は必要な知識もあって。たとえば“フランス革命とは?”となったとき、みんなは世界史でやってきているから当たり前に説明できるんですけど、僕はわからなくて、みんなが知ってることを学び直す必要があったんです。

教えるなかで、自分も学び直せる機会になるんじゃないか、という理由で始めたんですけど、意外と長く続いて、最終的に7年間ぐらいやりましたね」

子どもたちに教えるうえで大切なことを聞いた。

「みんな忘れているだけで、意外と簡単なことなんです。自分が何か物事を覚えるときって、勉強っていう認識はないじゃないですか。

たとえば、K-POPが好きな人は、勉強のつもりで曲を聴いてないから覚えられるけど、業界の人は覚えなきゃという気持ちで聴くから、なかなか覚えられないというか。だから、勉強って好きになる、楽しもうとすることが大切なんです。そこに導くのが、先生の仕事なのかなと思います」