話題になっている本を肯定してみよう

若いころの僕は非常に屈折していて、目に見えるものをとかく否定したがる傾向にありました。

たとえば本であれ音楽であれ、売れているものの大半は「売れ線だから」というだけの理由で否定していたのです。 

話題になっている本にしても同じ。

たとえばなにかの本がベストセラーになっていたり、話題になっていたりすると、「そんなのミーハーじゃん」と決めつけていたわけです。「売れる本には相応の価値がある」ということなど理解しようともせず、根拠もなしに一方的に決めつけていたということ。 

人生経験が薄い若者時代って、ましてや自信がなければないほど、周囲を必要以上に敵視したりしがちです。どう考えてもコンプレックスの裏返しなのですが、つまり、あのころの僕はそんな状態にあったのです。とても恥ずかしい過去だと恥じていますが。

でも人生経験を積み重ねていくなかで、視野は少しずつ広くなっていきました。それでもまだまだ甘いと思っていますが、年齢を重ねてきたからこそ、「売れる本」や「話題になっている本」のことも肯定できるようになったのです。 

だからというわけではありませんが、いまはそういう本はなるべく読みたいと思っていますし、できるだけ読むようにもしています。 

もちろん、それが自分の好みとはまったく違うジャンルだということも考えられます。しかし好みと違うからこそ、読んでみることによって気づくこともあるはずだと思っているのです。

たとえば最近読んだ本でいうと、いい例が『数の女王』[川添愛/東京書籍]という作品でした。素数などの数学をテーマにしたファンタジー小説です。

読むことによって新たな価値が出てくる

『数の女王』は、たまたますすめられて読んだのですが、売れているとか話題になっているとかいう以前に、僕にとっては非常にハードルの高い本でした。数学が非常に苦手だし、ファンタジーにもまったく興味がなかったからです。 

そのためなかなか頭に入ってこなくて、広告にあった「11 歳くらいから大人まで楽しめます」という文章を見たときには、「自分はそれ以下かもしれない」とすら感じました。 

たくさん出てくる数字に関する話も大半が理解できなかったのですが(そもそも数字が出てきた時点で、無意識のうちに拒絶)、それらのトピックスには素因数分解だとか三角数だとかフェルマーの小定理だとか、頭が痛くなるようなバックグラウンドがあると知り、「そりゃーわからないよなぁ」と納得させられもしたものです。 

しかしそれでも、「白雪姫」をベースにしているというストーリーそのものはよくできていて、読みながら「いまごろ、この本をワクワクしながら読んでいる小学生がどこかにいるのかもしれないな」などと感じ、親しみをおぼえたりもしたのでした。 

読むことによって新たな価値が出てくる イメージ:PIXTA

それは、読まずに通り過ぎたら味わえなかった感覚だと思いますし、そんな些細なことにも読書の価値があると実感しました。

たとえばこうしたことも、「売れている本」「話題になっている本」を読むことの価値だといえるのではないでしょうか。もし読まなかったら、そんなことを考える機会が訪れることはなかったのですから。