「書かずにはいられない」想いを表現する
では、人の心をつかみ、動かす文章を書くにはどうすべきか?
僕に関していえば、基本的には感覚的に書いているので、マニュアルのようなものを用意しているわけではありません。ただし意識していることはあって、それは「本音」や「気持ち」を隠さないこと。
僕は文章を書く際、無意識のうちに「かっこいい文章」を書こうとします。自分の文章をかっこいいと思ったり、好きだと感じたりすることはとても大切だと考えているからです。そして、本音や気持ちが表れていることは、「かっこいい文章」の大前提だとも思っています。
たとえば、大きな話題を呼んだベストセラーがあったとします。その本についての書評として、次のどちらが魅力的だと感じるでしょうか?
本書は、○十万部のベストセラーとなった○○○○年作『△△△△△△』に次ぐ □□□□の新作である。前作は短編集だったが、今作は著者にとっての初の長編。そのせいか全体的に力が入っている印象があり、ストーリーもよく練り込まれている。現時点で○万部を売り上げているというが、なるほど納得できる話ではある。
○○○○年の前作『△△△△△△』に次ぐ本作は、著者にとって初の長編だ。そのため期待と不安が入り混じっていたのだが、最初の3ページを読んだだけで心をぐっと持っていかれた。最初の段階から疾走感に満ちており、早くページをめくりたいと感じてしまうのだ。それだけストーリーが練り込まれているし、主人公◎◎◎◎を筆頭とする登場人物の個性も非常に際立っている。
ちょっと極端に書いてしまいましたが、データを軸とした前者よりも、後者のほうが書き手の興奮が伝わってくるのではないでしょうか?
もちろん書くにあたっては冷静さも重要なのですが、「書かずにはいられない」という想いをなんらかのかたちで表現することは、それ以上に大切だと僕は考えています。
うまいか下手かという以前に、書き手のそんな想いこそが人の心を動かすはずだから。データは調べればわかることですが、その人がどう感じたかは検索できないものなのです。