ひるんだらお客さんにバレてしまう
ネタができた例として、沖縄で活動する芸人に巻き起こった、ある話を語ってくれた。
「その芸人は基地のことをネタにしているんです。沖縄の人は、基地や米軍に対していろんなモヤモヤがあるので、そのネタがウケるんですよ。笑いは安心ですから。共感して、笑って、安心するみたいな」
そんななか、その芸人が本州にあるケーブルテレビでネタをすることになった。そこでも、基地のネタを披露しようとしたところ、スタッフに止められたという。
「その話を聞いたとき、僕の中でなんとも言えない気持ちになったんですよね。沖縄に基地があるということは、ミサイルや戦闘機を持ち込まれているということ。それなのに、沖縄の芸人はジョーク1つも外に持ち込めないのか、と。
よく、沖縄にとっては日常でも、それ以外の人にとっては非日常だから、ネタにされると不安な気持ちになる、と言われるんです。でも、それって沖縄を切り離して考えているような冷たい感じがして……。そういうときに“ライブでこれを言ってやる!”という気持ちになるんですよね」
村本にネタづくりにおいてルールはあるのか。質問を投げかけてみた。
「媚びず、ひるまないことですね。例えば、吉本の寄席とか漫才番組のお客さんの前でも、絶対にひるまないです。ジョージ・カーリンが言っていたんです。『自分の意見をコメディにするんだったら、絶対にひるんではいけない。ちょっとでもひるんだらお客さんにバレてしまう』。その言葉を守っている感じですね」
この映画を見た人に感じてほしいこと。それは「職業にとらわれてほしくない」ということだ。
「例えば、“将来、お笑い芸人になりたい”と言う人がいるけど、お笑い芸人になりたいんじゃなくて、(その先には)“笑わせたい”という気持ちがあるはずですよね? “英語を覚えたい”もそうです。“いやいや、英語を覚えて何がしたいんだ”と。
どんな職業でもそうですが、みんなカテゴライズされたものになろうとしているけど、それってすごく退屈でくだらないというか。もっと枠を飛び出すことが大事だと思うんです。
今回の映画は、僕の純粋な好奇心で全て動いていると思うんです。なんでも職業的になりすぎると、どんどんくだらないものになる気がするので、そのあたりの思いを感じてもらえたら」
もっとお笑いに真摯に向き合ったら先に進める
紆余曲折を経て、今年アメリカへ飛び立った村本。現在は「コメディクラブ」を回って、1日数ステージをこなしているという。
村本いわく、アメリカにはオープンマイクという文化があり、小さなバーやカフェにいるホストに数ドルを払うと、ステージに立てるシステムがあるとのことだ。そんなアメリカ生活について、村本は「夢の中にいるような感覚」と例える。
「コメディのネタを作って、社会への皮肉でドカンと笑いを取れたときや、さっきまで僕と目も合わせなかった人たちが、ウケた瞬間に“Instagram教えて!”と集まるときは、なんとも言えない夢のような時間に感じますね」
ただ、英語は完璧ではなく、片言で奮闘中。日本のように、スラスラと言葉を生み出せるわけではない。
「日本では、言葉を自由に操って、いかにお客さんにオチがバレないか、感情を込めながら持っていくんですけど、英語は片言だから、日本と同じ文字数で喋っていたら、遅くてオチがバレちゃうんですよね。だから、中盤ぐらいで笑いが起きちゃう。よりフリを短く、よりオチを強くしていかないと……とは思っています。
あと“これが絶対に面白い”と思っても、それを言葉にできないのがツラいです。言いたいことはあるのに、言葉がついてこない。若いときのジャッキー・チェンが、おじいちゃんの体に乗り移ったみたいな。そんな状態でやっているけども、その体でウケたときはうれしいです」
そうして言葉の壁に阻まれながらも、アメリカのステージでは覚醒する瞬間がある。20年以上も日本の舞台に立っていたことが、血となり肉となっているのだ。
「バッとウケはじめたら、日本語と同じモードに入るときがあって、不思議なんですよね。アメリカ人から、お前は変だ。言葉はボロボロで、発音もめちゃくちゃなのに、舞台に立った瞬間、間(ま)とかオチとか演技とか、プロの芸人に見えるって驚かれるんです」
着実に階段を登っている村本。最後に、アメリカでどんな景色が見たいのかを問うてみた。村本は、タネを採って野菜を育て、その野菜からできたタネをまた植えて野菜を作る……を10年繰り返すことで、ようやく野菜がその土地の土に馴染むと言う、雲仙の農家・岩崎政利さんの話を例に出しつつこう語った。
「自分が、あのジョージ・カーリンという野菜を育てたアメリカの土に10年いて、50~60歳になったとき、すごく魅力的なネタをやっていそうな気がするんですよね。その自分への期待みたいなものがあります。
多くの芸人は、東京に住んだら東京だけでやっていきますけど、料理人は、イタリアンを作りたくなったらイタリアに行くし、逆にイタリアのシェフが和食を勉強することもある。お笑いには、そういうのがないのが疑問でした。もっとお笑いに真摯に向き合ったら、もうちょっと上に行けそうな気がするんですよね」
(取材:浜瀬 将樹)
〇映画『アイアム・ア・コメディアン』公式サイト