メッシ or マラドーナ論争に終止符が打たれた
そして、その1年後。説明するのも野暮なくらいの結末を迎えた2022カタールW杯。
正直、個人的にはアルゼンチンがW杯を獲るのは難しいと思っていたし、カタールに着いたら初戦でサウジアラビアに負けていた時は
「やっぱダメなのかよ。アルゼンチン」
と落胆させられましたが、ピークを過ぎたメッシやディ・マリアは若手の力も借りて、ここまでのW杯で最も素晴らしいチームになりました。
その勝ち上がりもドラマチック。準々決勝の相手はオランダ。相手の監督はディ・マリアが唯一活躍できなかったチームであるマンチェスター・ユナイテッドの当時の指揮官ファン・ハール。
そう、メッシがバルセロナのカンテラ時代の憧れであり、メッシがW杯デビューした時のアルゼンチンのキング。メッシをしてこの選手のために走り回ることを厭わなかった天才、リケルメを干しに干した憎き監督でした。ぶっちゃけ僕も嫌いです。嫌いというかサッカーの好みが合わない。
ディ・マリアは試合前の会見で「今まで出会った中で最悪の監督」と言い放ちます。アルゼンチンの若者は結構ヤンチャなので、普段から火種になることを言ってしまいそうですが、ディ・マリアのこれは珍しいです。
そんな因縁の相手にアルゼンチンは良くも悪くも燃えに燃え、PKの末勝利。準決勝の相手はクロアチア。4年前にロシアの地で0-3という屈辱的な大敗を喫し、チーム崩壊のきっかけとなったチームです。
ここを3-0で勝利。因縁を次々と乗り越えていくチームはメッシとディ・マリアのキャリアを邂逅していくような旅でした。ただ、ここまでの勝ち上がり、メッシの横に常にディ・マリアがいたわけではありませんでした。決勝トーナメント1回戦で痛めた足の影響でオランダ戦は8分間、クロアチア戦は出番がありませんでした。
僕としてはメッシだけでなく、ディ・マリアが伝説になる大会を望んでいたので寂しくもありました。
決勝の相手はフランス。この大会で文句なしの最強のチームであり、前回大会でアルゼンチンを決勝トーナメントで敗退させて『メッシの時代の終わり。エンバペの時代の始まり』を世界に知らしめた相手です。
しかし、4年の時を経てメッシは帰ってきました。35歳で22歳のスターに4年越しのリベンジなんてフィクションでも書けない筋書きです。
そしてこの試合、ついにディ・マリアはスタメンに帰ってきました。怪我を押してでも、このバイプレーヤーがピッチに必要。アルゼンチンはそう判断したのでしょう。
そして、その判断に必ず応えるのが俺たちのディ・マリア様です。切れ味鋭い切り返しで左サイドから切れ込むと、ペナルティエリア内で倒されPKを獲得。34歳がまたも大舞台で輝きます。
当然PKを蹴るのはメッシですが最高の相棒ぶりを発揮すると、さらに立て続けに攻め立てるアルゼンチンはメッシが起点となって右サイドから鮮やかなカウンターを発動。締めくくりは左サイドを長―く速―く走っていたディ・マリアでした。
その目にはまだ前半36分ながら涙が。上手くて、速くて、絶対にサボらない、そして決め切る。本当にかっこいい男です。全てのサッカー少年に「ディ・マリアを目指せ」と言いたいですね。
その後、ディ・マリアを下げたアルゼンチンはフランスの猛攻に晒されると、怪物エンバペの2ゴールで追いつかれてしまいます。この男、能力的には既に世界一の傑物です。
そして延長戦! メッシがゴールを決め、スタジアムが、いや世界が揺れました。うちも揺れたし、家屋が頑丈な作りの日本でも結構な数の家屋が揺れたと思います。
メッシが5回目のW杯でついに世界一に……サッカー史上最も美しいエンディングだ。ベンチのディ・マリアも再び涙を流していました。
そんな世界中の感動の空気に冷水をぶっかけられるのがエンバペでした。延長後半、自らのシュートが相手の手に当たりPKを獲得すると、これを決め切りハットトリック。
3-3! なんて試合なんだよおい!!
いや、この試合はみんな知っているからざっくり割愛するつもりだったのよ。何をこんな長々と俺は……。
ご存知の通り、この後アルゼンチンはPK戦を制してディ・マリアが改めて涙を流しました。
アルゼンチンサポーターはメッシorマラドーナ論争に終わりが告げられたことを心から喜び、きっと天国のマラドーナもそう。
メッシが名実ともに全てを獲得した世界一のプレーヤーになったのです。バロンドール8回にオリンピックまで全部獲る選手は今後も現れないかも。でも最後の2ピースはディ・マリアがいなかったらきっと獲れなかったでしょう。