「新時代の壁」として作り出す新たな景色

26歳11か月で三冠王者になった宮原は、秋山、諏訪魔、大森隆男らの先輩相手に防衛を続け、先輩たちの壁を乗り越えると、今度は後輩のジェイク・リー、野村直矢、青柳優馬らを自分のライバルに引っ張り上げた。そうやって全日本では2016年2月から宮原時代が続いた。

「今、自分の発言を振り返ると、急ピッチでライバルを作ろうとしてましたね。でも、プロレスのライバルって難しいもんで、たとえば僕が『〇〇がライバルだ!』と言っても、無理やり感があったのかなって。そこにプロレスの深さを感じますよね。でもライバルがいないとプロレスは成り立たないんでね。

パフォーマンスは確かに大事ですけど、根本は技術があっての上乗せなんで。全日本プロレスの選手は根本に強さがないと上に行くのは難しいですね。強くないとパフォーマンスはできないから、そこが全日本プロレスの大変なところで、ちゃんと技術がないとお客さんも付いてこないですよ」

▲技術があるからこそ宮原のパフォーマンスは輝いて見える

そして気づけば今年に入って安齊勇馬という逸材が頂点に立ち、さらなる新時代の空気が生まれた。宮原が新時代を呼び込んでわずか8年……宮原は35歳の若さにして、今度は新時代の壁という立場になったのだ。

「安齊たちは2世代違うことになりますよね。35歳って、まだそんなトシでもないし、キャリア的にもまだ16年だから、大きい目で見れば中堅じゃないですか。でも全日本プロレスの流れが速いんで、さらに面白くなるポジションになったのかなって捉えてますよ。

初めて三冠を獲ってからたった8年しか経ってないんだから、それを考えると濃い時間ですよね。最近『ここで簡単に道を譲ったらダメですよ』っていうのを凄く言われるんですよ。そう思われがちですけど、別にここで時代を譲るつもりもないですし、譲ったところで面白くならないんで。僕がさらに飛躍して徹底的に叩き潰すっていうのが、いちばん全日本が面白くなることだと思っていますから。言うても僕もそんなにトシじゃないんですよ(笑)」

そして9月1日、地元・福岡での青柳戦だ。2020年2月11日の後楽園ホールで青柳が宮原の三冠に初挑戦して以降、宮原vs青柳というのは全日本の鉄板カードである。また2012年12月14日の後楽園ホールにおける青柳のデビュー戦の相手が宮原だったことを考えると、運命的なものも感じられる。

「確かに宮原健斗と青柳優馬にしかないストーリーはありますよね。デビューする選手の相手を務めたのは、あとにも先にも、あの試合だけですからね。でも、立川で青柳がベルトを獲るのは想定外でしたね。安齊勇馬との2回目の戦いでベルトを引っぺがして、そこから新時代の挑戦を受けるというのが僕のビジョンだったんで。瞬時に青柳優馬モードに切り替えましたけど、正直、試合が終わるまでは想像できなかった。

青柳優馬を引っ張り上げてライバルだと言ってきましたけど、ホントのホントを言えば、まさに今ですね、ライバルと認識しているのは。正直、1年前までは、僕の中のレベルとしてはそこまで至ってなかった。世間の目、メディアの目、会社の目とか、すべて含めて……去年、僕は2回負けていますけど、ライバルっていう同じ目線で見たのは、今回が初めてかもしれないですね」

ちなみに、これまでの戦績は14戦して宮原が11勝2敗1引き分けで圧倒しているが、今の青柳は28歳の若さながら陰湿ファイターとも呼ばれる曲者だけに宮原も油断していない。

「リングの上で『安齊勇馬から奪ったベルトだから重い』とか言ってましたけど、あれはおそらく嘘ですから。そういう気持ちは本人の中にないと思いますから。試合前のビジョンで流れる煽りVTRでの言葉も、すべてを受け入れることはできないですよね、ホントか嘘かわからないんで。それが彼の試合までの戦術ですよ。もう心理戦は始まってますよ。

立川の試合後のマイクでも感じましたね。どっちが主導権を握るんだっていう。彼にはそういうクレバーさがあるから読めないところがありますし、技術的にも戦ってない期間にまた違った選手になっていると思うんで、今回の三冠王者・青柳優馬は、僕が味わったことのない青柳優馬かなと想像しています」

福岡で三冠戦が開催されるのは、2016年3月21日の博多スターレーン以来7年半ぶり。それも前回は宮原が初戴冠しての大森隆男との初防衛戦だっただけに、今回の三冠戦に対する宮原の思い入れは深い。

「ファンの気持ちも入り乱れているんじゃないですかね。『このカードが観たいんだ!』という層もいれば『時代は進んでいるのに、またお前らがやるのかよ』っていういろんな声があって、また面白いのかなと思いますけどね。いろんな声が上がって、賛否が出て、そこでいろんな渦が起きたら、また面白くなるかなと。

世間が見ていた流れは多分、新時代が突っ走るようなイメージがあったと思うんですけど、宮原健斗がここで三冠を獲れば、また違う景色を見せられる自信がありますよ。また独走しようかなと思ってるんですよ。昔のような独走じゃなく、タレントが揃ってきている中で独走すれば、またさらに気持ちがいい。

青柳優馬以下の選手、新時代はさんざん宮原健斗を利用したと思うから、次は逆に僕が利用してやろうかなって気持ちですね。前回の福岡での三冠戦はチャンピオンでしたけど、7年半の時を経て今回はチャレンジャー……ファンの皆様の声援が当日の会場の雰囲気を作ると思うんで、熱い健斗コールをよろしくお願いします!」

▲会場で「健斗コール」で盛り上がろう!

プロフィール
宮原 健斗(みやはら・けんと)
2008年2月、健介オフィスでデビュー。2013年8月、全日本プロレスのマットに来場。その後、フリーとして全日本プロレスに参戦し、潮崎豪が率いる「Xceed」に加入。2014年1月 全日本プロレスに入団。2015年12月、 ジェイク・リーと共闘し「NEXTREAM」を結成。2016年2月にはゼウスとの三冠ヘビー級王座決定戦に勝利し「史上最年少三冠王者」となる。その後、8度の防衛に成功し、東スポプロレス大賞では殊勲賞を受賞した。以降、三冠ヘビー級王座を計6回戴冠した。タイトルマッチで激闘を繰り広げた直後にも関わらず、観客と一体となり大会を締めることで全日本プロレスのエースとしての地位を不動のものとしている。X(旧Twitter):@KentoMiyahara、Instagram:@kento_miyahara