フジテレビ系列で生放送されているバラエティー番組『ぽかぽか』(毎週月~金曜日)。8月26日の放送には、教育学者の齋藤孝先生がスタジオに生出演し、知っておきたい日本語SPと題して、MCやゲスト陣とともに間違いやすい日本語を問題形式で紹介した。番組でも取り上げられた、意味を間違いやすい日本語を紹介します。
※本記事は、齋藤孝:著『二度と忘れない! イラストで覚える 大人の教養ことば』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
「姑息」は卑怯という意味ではない!?
「姑息なやつめ」というのは時代劇における定番の台詞だが、ここで卑怯といった意味合いで用いられたことが、誤用が広がった理由の一つかもしれません。
本当の意味は、しばらくのあいだ、息をつくこと。根本的な解決をせずに、場当たり的に物事をすること、その場のがれ。
「姑息」という言葉に入っている「息」とは、吸って吐く呼吸のこと。ほんの短い、この一息が「息をつく」ということなので、この「息」という字から「一息つく=短く一時的なもの・その場限り」と覚えるとよいでしょう。
余談ですが、私は呼吸法の研究をしていたことがあります。「息」とは面白いもので、吸っているときは命が高揚し、吐いていくと次第に心が静かになって、吐き終わったわずか一瞬、静かな空白ともいえる瞬間が訪れる。
私は、この“軽い死”とも思える瞬間を「出止(しゅっし)」と名づけ、「出止」の瞬間を見つめることこそが悟りへの道へつながると考えました。現在、呼吸に焦点を当て“今この瞬間” を感じる「マインドフルネス」が流行っていますが、私の呼吸法研究と共通する部分が大きいように感じます。
「今さら変えられない!」と芸人が叫んだ破天荒の意味
「破天荒芸人」などの表現が広まったことで、豪快や大胆といった間違った認識を持っている方が多いように感じます。しかし、本来の「破天荒」とは、唐の時代に官吏の試験の合格者が一人も出ず「天荒」と呼ばれた土地に、初めての合格者が出たことで、「天荒を破った」と称したという故事によるもの。
本当の意味は、今まで誰もしなかったことを初めて成し遂げること。前例のないこと、前代未聞。
つまり、「この高校から、初めて東大に行った!」といった意味合いですから、本来は非常に真面目な人を指す言葉なんですね。
ちなみに、平成ノブシコブシの吉村(崇)さんは、テレビで共演させていただいたことがありますが、芸人さんの心意気とは素晴らしいもので「(破天荒の)本当の意味を聞いたけれど、今さら変えられない!」とおっしゃって、大胆にも全裸でスタジオ中を歩きまわる姿に、思わず感服したものです。
とはいえ、裸になって歩きまわったり、脇で音を鳴らすような芸は、本来の「破天荒」ではありませんので、くれぐれも誤解なきよう。
「敷居」をまたぐのは現代では廃れつつある
「敷居」には、「一見さんお断り」という表現にも似た、どこか高級なイメージを持たれる方が多いのかもしれません。しかし、この言葉は相手に対して「不義理」があるという点がポイントです。たとえば借金があったり、長いこと会っていなかったりすると、「どうも、あの家は敷居が高くてねぇ」ということになります。
本当の意味は、相手に不義理や面目のないことがあるので、その人に行きにくいこと。
そもそも「敷居」とは、家や部屋に入るための出入り口となる開口部の下にある横木のこと。この「敷居」が相手との境目になっているのでしょう。
ところが、最近では気軽に他人の家に行くことも少なくなり、この「敷居」という言葉が廃れつつあるように感じます。「こんなやつに、二度とうちの敷居はまたがせない!」といった台詞もすっかり聞かなくなりましたが、個人的には、できれば残したい日本語の一つです。
そういえば、学生たちが“この前◯◯の誘い断ったから、フォローしてもブロックされるかもな~”とSNS の話をしていましたが、まさに現代の「敷居が高い」話なのかもしれませんね。