21年ぶりのプレミア制覇に期待がかかるアーセナル

そのクラブは古豪ではありません。日本にも数多くのサポーターがいる人気クラブです。しかし、リーグタイトルを最後に獲得したのは2004年です。でも、そのクラブは紛れもなく強豪です。

欧州CLで優勝したことはありません。それどころか決勝に進出したのも一度だけです。そんなチームが今季、サッカー史上最強かもしれないチームと、サッカー史上最も群雄割拠となっているリーグに挑み、21年ぶりの優勝を成し遂げるかもしれない。今日はそんなアーセナルの話。

前々回のコラムで、プレミアリーグについて書いた際に「アーセナルについては長くなるから今度」としましたが、思ってたより長くなったので前後編に分かれております。

すごくないですか? だって、そもそも僕はアーセナルのサポーターですらないんですよ。僕の心のクラブは浦和レッズだけなのです。それでもアーセナルについて書き出したら止まらない。

最後のリーグ優勝を見ていた世代としては、今季のアーセナルはロマンでしかないのです。そのフットボールは20年以上ずっと美しいけど、どこか脆い。他のビッグクラブほど大スター選手を揃えているわけではない面も、どこか魅力的に映っていました。

さて、アーセナルが最後に優勝した03-04シーズン。当時のプレミアリーグは、アーセナルとマンチェスター・ユナイテッドの二強時代で、近年ほど、とんでもないレベルのリーグではありませんでしたが、とはいえアーセナルの強さは群を抜いていました。

ヴェンゲル監督が率いたチームは、ティエリ・アンリやパトリック・ヴィエラらを擁し49戦無敗という離れ技を達成。インヴィジブルズ(無敵のやつら)と呼ばれ、フラットに海外サッカーを見ていた僕のような人間でさえ魅了しました。

しかし、このシーズンを最後にアーセナルが無敵と呼ばれることはなくなります。翌シーズン、アーセナルは継続していた無敗記録をマンチェスター・ユナイテッドに敗れて、途切れさせると失速。その原因は、怪我人と選手層の薄さによる疲労でした。この2つの問題は、ここからアーセナルとは切っても切れない呪縛のような関係になっていきます。

リーグ全体に目を向けると、アーセナルが無敗優勝をした03-04シーズン、プレミアリーグに新たな時代が訪れる前触れが起こっていました。

二強時代に終止符を打つように、突如、現れたのが石油王アブラモビッチオーナー。彼が買収したチェルシーというクラブは、そのシーズンのCLでベスト4に進出。しかし、結果を残したラニエリ監督を解任して、FCポルトを優勝に導いたモウリーニョ監督を招聘したのです。

モウリーニョ監督が率いたチェルシーは、失速して勝ち点83に留まったアーセナルを尻目に勝ち点95を稼ぎ出し、圧倒的優勝を遂げるのです。シーズン総失点は15。……15だと!!?(ちなみに昨シーズンのシティの総失点数は34)

このシーズンを境にプレミアリーグは、チェルシーとマンチェスター・ユナイテッドの二強が覇権を争う時代なっていきました。

アーセナルが競争力を失ったことには明確な理由もありました。ホームスタジアムのエミレーツ・スタジアムを新たに建設したアーセナルは、上記の2チームと比べて補強に割ける予算が少なく、若手主体のチームにシフトするしかなかったのです。それでも、その目利きは確かで、ラムジー、ファン・ペルシーら多くの有望な選手を登用しました。

そのなかでも、16歳のセスクをバルセロナから獲得すると、04-05シーズンには17歳にして故障したヴィエラの代役として起用。即座にチームの中心になると、06-07シーズンにはヴィエラから背番号4を引き継ぎ、チームのシンボルとなりました。

しかし、育てた選手をメガクラブに売らざるを得ない経済状況が続き、優勝を目指す準備が整っているシーズンが来ることはなかったように記憶しています。

いろんなチームをバランスよく見ている僕のような人間には「アーセナルは毎年9月になるとスタメンの半分近く見たことない選手になるな」という認識がありました。

セスクを中心としたアーセナルのフットボールは、プレミアリーグでは異質の美しさがありましたが、それでも層の薄さや呪いのように怪我人が出ることによって、シーズン通して勝ち続けることができず、リーグでは3位や4位に甘んじます。ロシツキーなんかは大好きだけど、怪我してない時期を探すのも難しいくらい離脱していた気がします。

そんな時代でも、05-06シーズンのCLではチーム史上初の決勝進出を果たしますが、対戦相手のロナウジーニョやシャビ、イニエスタらを擁するバルセロナは完全上位互換。

さらにキーパーのレーマンが退場したことで、攻撃はリュングベリとアンリのスピードに依存するしかなく、アーセナルらしさを決勝の舞台で表現することはできませんでした。