史上最高の場所からのムーンサルト
宮本が提案した試合形式は“廣島大治組プレゼンツ高所作業につき立体足場建築現場デスマッチ”。
メインのアイテムはコーナーに設置された、建築現場などで使用される、高さ約4メートルの足場。最初にアイデアを聞いた時には、面白いことを考えるものだと感心はしたものの、設営にどれだけの時間がかかるのか心配になった。
しかし、設営にあたった廣島大治建設のとび職人さんたちは、鉄パイプを見事な手際で組み立てていき、なんと12分余りで高さ4メートルの足場を完成させたのだ。
ちなみに設営にあたった職人さんの一人は、宮本の暴走族時代の仲間だった。つまり、あの足場には宮本と職人さんの、青春時代からの人生も刻み込まれていたのだ。作業が終了するや超満員札止めの客席から、驚きと尊敬の拍手が沸き起こった。
足場の作業の段階で、すでに出来上がっていた会場の空気は、挑戦者の宮本と王者の貴が入場するとさらに過熱。そしてゴングが鳴ると一気に爆発した。
宮本は自分が考案した足場を、存分に武器として活用した。足場上の攻防を制して貴を転落させると、高さ4メートルからのフットスタンプ。さらに20分過ぎには足場からのムーンサルトも放った。
おそらく、プロレス史上で最も高い場所からのムーンサルト。もちろん練習などしているはずがなかったが、躊躇なく飛んだ宮本は空中でゆっくりと回転して、見事に貴の上に落下した。この度胸の良さと空中でのバランス感覚も宮本の武器だ。
とはいえ高さ4メートルから、宙返りをしてからの落下だ。宮本自身も大きなダメージを負ってカバーが遅れ、カウント3を奪うことができない。
追撃を狙う宮本は貴を机の上にセットし、再び足場の上に登る。すると気合いとともに起き上がった貴も、宮本を追って足場を登っていく。足場上の攻防を制した貴は、宮本を抱え上げると、机めがけて落差4メートルの雪崩式D-ガイスト!
しかし今度は貴のカバーが遅れて、宮本がカウント2で肩を上げた。ここから勝負に出た貴がラッシュをかけるが、肩を上げ続ける宮本を、割れんばかりの宮本コールが後押しする。
そんな宮本を肩に担ぎ上げた貴は、脳天からマットに突き刺した。
新必殺技のD-ガイスト改!
これはさすがに返せずカウント3が入ったが、敗れた宮本の健闘を称える、試合中よりもさらに大きな宮本コールが沸き起こる。
まさに死闘だった。しかも、その死闘は観る人に生きる勇気さえ与えたはずだ。そして、あれほどの激闘を繰り広げながら、貴も宮本も自分の足で控室に戻っていった。
ちなみに、この大会で自分は約半年ぶりの復帰を果たし、復帰戦の6人タッグも自らの勝利で飾ることができた。しかし、メインの試合内容と爆発的な客席の盛り上がりを目の当たりにして、気持ちを引き締めざるを得なかった。
長期欠場が決まった時には、自分がいなくて大日本は大丈夫か? と危惧を抱いた。ところが貴は伊東竜二不在の大日本を、デスマッチ王者としてだけでなく、他団体所属ながら事実上のエースとして盛り上げてくれた。
さらにキャリアも年齢も一世代下の宮本が、王座奪取こそ果たせなかったものの、これから一気に台頭してくることは明らかだった。
もはや自分は以前のように、デスマッチ戦線における絶対的存在ではない。それは悔しいけれど認めざるを得なかった。ならば、のんびりと様子を見ている時間などない。復帰したばかりの自分に課せられた義務は、一刻も早く貴からベルトを奪うことだった。