エスパー伊藤ちゃんは言う。
「手っ取り早く、短期間で結果を出すなら糖質をカットすること、ですかねー」。
「糖質制限ってやつっすか?」と私が聞くと、伊藤ちゃんは食い気味に
「糖質制限ではないです!!」と。
「制限ではなく、とっちゃダメです、炭水化物は取っちゃダメ! 0にする勢いでやらないと! 糖質制限なんて言葉はまやかしです! ダイエットもどきです! あんたのただカロリー落としてるだけです」
ご飯の量少なくするとかじゃダメらしい。オートミールもダメだと言う。
それどころか
伊藤ちゃん「かぼちゃもダメです」
かぼちゃは野菜なのに!?
伊藤ちゃん「え? あんなの糖質のかたまりですよ? そんなことも知らないんですか?」
なんかすみません……。
伊藤ちゃん「レンコンも、ごぼうも、人参もダメです」
私「……え? じゃあもうキャベツ食っとけってことすか?」
伊藤ちゃん「いや、私ならキャベツも取り入れないです」
…………
と、私が絶望の淵に立たされたその時、上司から呼び出され、話を中断せざるを得なくなった。
伊藤ちゃんは慌てて上司の元へ向かう前に、最後にこう言い残した。
「とにかく何か食べ物を買うときに成分表記を見てください! お弁当とかの値段とか貼ってあるシールに大抵書いてありますから。それ見て、糖質が10g以下のものを必ず選んでください。じゃないとケト──」
と言いかけたところで、エスパー伊藤ちゃんが上司に再度呼び出される。慌てて上司の元へ向かう伊藤ちゃん。その日はそこから仕事でばたつき、結局伊藤ちゃんとそれ以上は話せなかった。
その日の夜。
私はコンビニのお弁当コーナーで立ち尽くした。
エスパー伊藤ちゃんに言われた通り成分表確認。
成分表はお弁当の裏に貼ってあることが多く、お弁当を傾けないように成分表を見るのに苦労する。そんな苦労をして見た成分表には、どれもこれもたいてい糖質が10g以上入っている……。
結局……
サラダチキン、きのこのサラダ、イカ。
こんなメニューになってしまった。
そして土曜日、日曜日と、もはや何を食べていいのかもわからず、同じものを食べてみた。
で、月曜日の朝。
今……、目の前にはオートミールがある。まずい。正直まずい。
もう、辛すぎて泣きそうなのだ!
糖質を0にすることが辛すぎる……!
正直キッッッッツイ!!! オートミールすら食べられない現実が耐えられなくて、とりあえずオートミールを目の前に出して、眺めてみているのだ……っ!
あー。食いてぇ……。
オートミール食いてぇ……!
自動美流(オート・ミール)「俺を、悪者にしないでよ」
すると、私の後ろから、自動美流(オート・ミール)の声が聞こえた(気がしただけ)。
彼は、私を優しく抱きしめ……
そして、こう呟いた。
えー。やだー、なんかエロい(1話からの累計3回目)。
…………
あー
うん!!
もー、いいや!!
食べよ。もうやめよ!! こんなの辛すぎるわ!
そして、私は……
ダイエットをやめた。
ダイエットをやめて2週間。私はフツーーーに生活をした。
Y編集には丁寧に事情を説明。一旦休載と言う形を取ることになった。
そもそもダイエットってこんな辛い思いをしてやらないといけないことなのか? そこまでしてやる価値があるものなのか?
この2週間、体重は一切変わっていない。10キロ痩せると言い出してから一切変わっていない。けど、私はそこそこ幸せだ。そこそこやりがいのある仕事をして、同僚や友達と笑って過ごす。ダイエットをやめたからって、痩せないからって、私の幸せにはなんら影響はないのだ!
まあとはいえ、ちょっと気にしてしまうのが私の弱いところと言うか、なんというか。
チョコ食べたい……と思ったところをやめて、グミにしてみたり。唐揚げ……をやめて、焼き鳥にしてみたり。まあ、きもーーーちカロリー的なことを気にしてはいる。けど、普通に食べたい!! って思った時は全く我慢せず唐揚げもチョコも食べる。
ま! そんな生活で体重が減るわけもない。
だって今までと対して変わらない生活をしてるんだから。
10キロ痩せると言い出した体重、そのまま。
…………
ん?
この時、私はあることに気がついた。
「私……この2週間、太ってない……?」
これが、この気づきが、
私を少しだけ変える、
きっかけになったのだ。
10キロ痩せるまで、あと10キロ──