少しずつ自分にしか出せないものを見つけていけたら

――演じる藤という役柄について、どんな印象を持ちましたか?

樋口「藤には、鬼と人間の血を引く“唯一の存在”という設定があります。台本を読み進めるうちに、「この子はどこに居場所を感じているんだろう」とか、「どこに自分の存在意義を見出しているんだろう」と、いろいろ考えさせられました。しかも藤という名前も意味があって。花言葉に“決して離れない”という意味があったり、蔓が伸びることから“繁栄”の象徴ともされていて、役としての象徴性がすごくあります。なので、演じる上でのプレッシャーも大きいですが、それ以上にこの役を通して届けられるものがたくさんあると思っていて、すごくやりがいを感じています」

――演出のいのうえひでのりさんとのやり取りはこれからとのことですが、期待していることはありますか?

樋口「まだ深くはお話しできていませんが、周りの共演者さんや、過去に出演された方から「いのうえさんは演じて見せてくださる演出家」だと伺っています。言葉だけではなく、身体で見せてくださるのは、すごく贅沢なことだなと思いますし安心感があります。答えを言われるよりも、示されることで理解を深めることができると思っているので、とても楽しみです」

 

――お稽古のスタートで何か印象に残ったことはありますか?

樋口「最初の本読みの段階から、現場の空気が温かかったです。劇団員の皆さんがチームという感じで、でもそこに自然と入れてもらえる空気がありました。稽古場で少しずつ役が立ち上がっていく過程を間近で見ながら、自分ももっと挑戦できるなと前向きに思えました」

――ドラマや映画との違いはどこに感じますか?

樋口「舞台は、始まりから最後までエネルギーを保ち続けないといけないですよね。映像のお芝居は“瞬発力”が大事とよく言われますが、舞台は“持久力”。毎日同じセリフを話していても、その日その瞬間の空気によって、芝居がまったく違ってくる。だからこそ、日々“フレッシュな気持ち”でいることがすごく大切だと思っています。なので、セリフを覚える以上に、毎日新しい気持ちで立つということを意識しています」

――役を固めすぎない、ということも意識している?

樋口「そうですね。もちろん基礎となるところはきちんと作っておきますが、固めすぎると、その場の変化に対応できなくなってしまう。共演者の方の表現によって、自分の芝居も変わるべきだと思っているので、余白を残すことを大事にしています。毎回同じではなく、その日その日の藤でいられるように、役と一緒に呼吸していく感覚で演じたいです」

 

――改めて、今回の『紅鬼物語』を通して、ご自身が届けたいと思っていることは?

樋口「私が演じる藤は、ある2つの側面を持っていて、そのどちらにも完全にはなりきれない存在なんです。だからこそ、どこにも属せない苦しさや、居場所を探す切なさというのは、現代に生きる私たちにも通じるテーマだと思っています。観てくださる方の中に、「自分もなんだか居場所がないな」とか「本当の自分ってなんだろう」と悩んでいる人がいたら、藤の生き様が、少しでもその背中を押せるような存在になれたらいいなと思っています」

――では最後に、今後の夢や目標についてお聞かせください。

樋口「“樋口日奈”という名前を見て、「この人が出ているなら観てみよう」と思ってもらえる存在になることが、今の私の夢です。グループを卒業して、改めて自分ひとりでどれだけ表現できるかという壁に向き合っていますが、その中で少しずつ自分にしか出せないものを見つけていきたいです。まだまだ道半ばですけど、今回の『紅鬼物語』のように、自分の感情をすべて注ぎ込めるような作品にこれからも関わっていけたら嬉しいです。そしていつか、自分が誰かの憧れになれたら……そんな日を夢見て、これからも精一杯頑張りたいと思います」

 

プロフィール
樋口日奈(ひぐち・ひな)
2011年に乃木坂46の1期生としてデビュー。2022年の乃木坂46卒業後は俳優として様々な作品に出演。現在、主演を務めるスズキWEBショートドラマ「初風のきせき」がスズキ 国内二輪公式YouTube チャンネル(https://www.youtube.com/@suzukicojpmotor)にて公開中。4月26日より配信スタートのHuluオリジナルドラマ「おとなになっても」(https://www.hulu.jp/static/otonaninattemo/)にも出演決定。最新情報はHP(https://higuchihina.jp/)にてチェックを。

INFORMATION
2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演
いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』

5月13日~6月1日 大阪・SkyシアターMBS
6月24日~7月17日 東京・シアターH