周知の事実だと思いますが、オレはとにかくカッコいい。もう昔からモテモテ中のモテモテ。

いや待て!
全然カッコよくないぞ!
ホラー映画の『SAW(ソウ)』に出てくるジグソーにそっくりじゃないか!
いい加減にしろ!

今こう思った人たち。
まあ落ち着いてくれよ。
そんな生意気言う人にはオレのモテモテ伝説を知ってもらおうじゃないか。

このエッセイではオレの日々の反省を綴ってるけど、たまにはオレのカッコいいを説明させてもらおうじゃないの。

まず中学の卒業式では、同級生や後輩の女子が好きな人の学ランのボタンを貰いにいくという風習があったのだけど、何人もの女子がオレのボタンを欲しがるので学ランの前に付いてるボタンだけじゃ足りなくなり、袖のボタンまであげたモテモテボタン伝説もあるし、高校では入学して“たったの” “たったの” 1ヶ月で8人もの女子に告白された。

この最速のモテっぷりはミハエル・シューマッハも日本語で「早っ!」と言うでしょう。

最近では、基本的に厳しい意見を言うのが仕事の鬼のマナー講師の平林先生に、

「あなたは顔と挙動がハンサムね」

と言わしめ、あのレジェンド中のレジェンドの松任谷由実さんにお会いした時もイケメンと言われたことがある。

どうだい?
これはもう完全にカッコいいでしょ?

このモテっぷりには石田純一も怯えて木村拓哉がライバルと認めるでしょう。

そんな1人イケメンパラダイスのオレだけど、実は不遇の時期もあった。それは20代中盤の芸人として全く売れてなかった時代。

始めたての頃は周りも応援してくれて“芸人なったんだ! 凄い!”とチヤホヤしてくれたし、社会人時代の貯金も少しはあったのだけど、芸歴5年も過ぎた頃にはお金も無くなり、オーディションも落ち続けてテレビに一度も出れない状態で焦りに焦っていて余裕が無くなっていた。

やはり余裕のない人間はカッコよくないしモテない。

そんな時に先輩の紹介でとある有名バラエティー番組をやっているディレクターさんと知り合った。

その人は売れてない芸人を下に見るタイプの最悪の人だった。理由はわからないけどなぜか気に入られてしまい、飲み会によく誘われるようになった。

その時はなにか少しでも仕事に繋がればと毎回顔を出していたのだが、まぁ飲み会も最悪だ。

態度のデカい社長や港区女子みたいなやつらがいて、飲み物が空いたらすぐに注文をして、面白くもない話に愛想笑いをして自分の話すターンなど一度もない。まるで召使のようにこき使われていた。

その中でも群を抜いて嫌なやつがいた。

自称グラビアアイドルと名乗るオレと同い年くらいの港区女子を煮詰めたみたいなやつだ。

そいつは、
「ねぇ、あんた芸人でしょ? なんか面白い事やってよ」
と地獄のようなフリをしてくる。

そこでやらない選択も取れたのだが、ここで逃げたら逆に負けだ。

オレは侍だ。

仕掛けられた勝負からは逃げない。

上等だ。腹ちぎれるまで笑かしてやろうじゃねぇかよ。

渾身のギャグをぶちかます。

冬のヒマラヤ山脈が嫉妬するほど空気が凍てつく。

するとその自称グラビアアイドルは、
「全然面白くない。はいバップー、グイしろー」とわけの分からない事を言って並々に注がれたテキーラを飲ませてくる。

ちくしょう。

ここでキレたら負けだ。

それに笑わせれないのはオレの実力不足だ。
怒りをグッと腹の奥に抑え込んでテキーラを飲む。

「てかさぁ、全然面白くないから芸人辞めちゃえば?」

韓国ドラマの嫌なやつくらいのテンポでそこから悪口を重ねてくる。

なんなんだこいつは。
お前もまだ何者にもなれてないだろ。
権力者の隣にいるだけで自分も大きく強くなったつもりなのか。

テーブルに置いてあったテキーラを飲み干して、「すみません、お先に失礼します」
と言って店から飛び出した。

今でもその夜の事は鮮明に覚えてる。
そこで早く売れて全員見返してやるんだと強く六本木の空を見て誓った。