五感から探るアイデア
――そこに至るまでってどれくらい時間かかっているんですか?
辻尾:メモしてから1年ぐらいは寝かしていたんじゃないですかね。こういうホコリの気づきは、ほとんどの人が無意識に認識していると思うんです。なので、それをわざわざメモするかどうかっていう第1段階と、ものを作る時にそれと結びつけるかどうかという第2段階があって、そこのプロセスが結びついているだけみたいな形かもしれないですね。
高野:確かに2つの気付きですね。例えば、ものを作る時、考える時の発想の方程式みたいなのが、ご自身の中にできていったりしていますか?
辻尾:ある程度はあると思います。ただ、全部がその方程式に当てはまるわけじゃないんですけど、いくつかプロセスはあって、例えば、さっきのアロマトグラフィーとかだと、”五感ずらし“という方法があるんですけど、アロマって香りで楽しむものなんで、メインは嗅覚なんですけど、それを仮に視覚で楽しむものだったらどうなるんだろう? 聴覚で楽しむものだったら? 触覚はどうだろう? っていうふうに、五感をずらすことによって新しいものを生み出すみたいなプロセスもあったりとか。いろんなプロセスがありますね。
高野:目を閉じてやるカルタとかですね。
辻尾:ありがとうございます。まさにそういう感じですね。
高野:触感を読み上げられて、手探りでプニプニとかざらざらとかを選ぶみたいな。あれも五感ずらしから(笑)。
辻尾:そうです(笑)。
――そういう、“こうしたら面白いかも”みたいな気づきって、いつぐらいからこういう方程式ではまりそうみたいに感じてきたんですか?
辻尾:僕の卒業制作の時に、言葉、50音から全て言葉遊びでものを作るっていう制作をしたんです。その時に、割と明確に言葉からものを作るっていうアプローチができて、あの時にはなんとなく確立されてた気がしますね。
高野:どんな作品を作られたんですか?
辻尾:アイデアを50個模型にして並べるっていうもので、例えば、あいうえおみたいなので、えだったら、“煙突の鉛筆”って、煙突みたいな鉛筆を作って、煙突って中身がすすで、鉛筆の芯も炭素なので、意外とこの2つって近いよねみたいなのとか(笑)。そんな感じで、言葉から物の性質を探るみたいなことをやってたんです。それを50個引き出しを並べて展示するっていう形で。
▲写真:辻尾一平さん提供
高野:へー! すごいですね。
辻尾:他には「酒月」ってやつだと、盃でお酒を飲む時に、側面がどんどん月が満ちるような形になるから、盃の中に酒と月の反比例が存在するとか、言葉からいろいろ発想して作っていきました。
高野:ダブルミーニング、トリプルミーニングみたいなものを立体バージョンみたいなことですね。本当にすごいです。
辻尾:アプローチはいくつかあって、言葉からアプローチする場合もあれば、五感からアプローチになる場合もあったり、単純に今までメモしていたことから繋げることもあったり。あまり明確に一つのやり方ではないんですけど、いろいろ法則はありそうな気はしています。
高野:例えば、50音をやっていて、「ふ」とかが出てこなくて、なんでこんなに時間かけてやっているんだろう? とか思わないですか?
辻尾:アイデアって、そういうものだと思っていて、目の前の作業をやっていれば確実に終わるというのは気が楽ですけど、ある意味、誰でもできることだと思っています。逆にアイデアの部分は1週間考えて何も出ない可能性も全然あると思うんですけど、でも、それにトライしないと何も生まれないというか。ゴールが見えていなくても一旦何かあるだろうと信じてやるしかない期間だと思います。丸1日、2日考えても何も出ないことはありますが、こういうやり方上、仕方ないことだと思っていますね。
高野:何かあると思って…。
辻尾:はい、とりあえず考えるしかないと思っています。もちろん、数日かけて何も思いつけなかったりすると凹む感情はありますけどね。高野さんは、「妖怪ウォッチ」(のエンディングテーマ『ようかい体操第一』)で大ブレイクされたじゃないですか。あれをご自身の大きな壁だと感じる時はありますか?
高野:そうですね、とてもありがたいことだし運がいいなと思っていますが、確かにそれは壁としてとても高いと思うので、そこに挑戦し続けている感じです。もっと違う自分を多くの方に知ってもらえるように、探っている感じですね。
辻尾:なるほど。アーティストの方は特に、大きなヒット作が一つあると、それが良くも悪くもついて回るみたいなことはありますよね。
高野:ライブで人気曲をやるかどうかとか、ありますよね。
辻尾:そうです、そうです。
高野:辻尾さんの珈琲牛乳のグラスもそういう意味では、辻尾さんにとっての壁になりますか?
辻尾:そうですね、僕も超えなくちゃと思っています。自己紹介の時にあれ知っていると言われることも多いので、そういう意味では看板代わりになって良かったと思いますが、グラスの人になってしまうのはまずいなと思います。


高野洸