アーティストでもあり俳優でもある高野洸が、対談を通してアートの世界に触れ、表現を学ぶ「お訪ねアトリエ」。今回のゲストは、阿南さざれさん。木目の上に人や動物などのモチーフをはっきりとした線で描き、カラフルな色で装飾された作品が特徴的な阿南さんの作品は、現代アート的なデフォルメと木という素材のコントラストがとてもおもしろい。阿南さんが作品のテーマに掲げる“諸行無常”“幽玄”に繋がる原体験とは? 高野さんとの共通点も明らかになった対談をお届けします。
前編では、アトリエのこだわりや描くモチーフをどういうところから考えているのかなど、興味深いお話を沢山お話しいただきました。今回は阿南さんの少年時代の話や意外な経歴など、人となりが感じられるエピソードを伺いました!

曲線へのこだわり
高野:このまっすぐな線、どうやって描くんですか?
阿南:一般的には定規とか多分使うと思うんですけど、私は10代の頃から線を描くのが好きで。
高野:そうですか。
阿南:関数で言うと、その数学で言うところの最小限の数式で書ける線が好きなんですよ。なるべく尖りがない、なだらかな曲線と曲線の繋がり。僕、武蔵野美術大学に入ってたんですけど、武蔵美って立川の方にある大学行っていて、そこに入ったのは車のデザイナーになりたくて入ったんです。
高野:へぇ、そうなんですか。
阿南:スポーツカーとかの曲線美が結構好きで。そこから大学に入っていろいろやっていくうちに、やっぱり自分の表したい、表現したいものを作りたいという、自我が芽生えてしまって。車とかのメーカーに入ると、どうしてもお客さん、クライアントの要望、需要に合わせてデザインを起こすことになってしまうので、なかなか自分から発するものを作れないんだろうなと思って、そこから美術作家を目指すようになったんですよ(笑)。
高野:勝手に結び付けて申し訳ないんですけど、僕も車のシルバーのぷっくりした部分、大好きですよ。窓のフチとかシルバーで囲われてるのが好きで。結構通ずるものはあります。
阿南:今僕が乗っている車も、結構パーツが好きで気に入ってるんです。
高野:いいですよね。
阿南:そういうところが好きで、割とこういう線を引いていく作業を結構ずっとやってたんですよ。いかに滑らかに線を繋げられるかみたいなことを。車が走りやすい効率的なレースコースみたいなカーブを描いていましたね。
高野:僕はカーブだけを描くっていうことはしたことなかったですけど、雷みたいなギザギザした形を描くのが好きでした(笑)。

――絵を描かれるようになったきっかけは?
阿南:子供の頃、みんな絵を描くの好きじゃないですか。僕も同じように好きで、その中で得意だったんですよね。周りの子たちよりも、より熱中してたというか。中学、高校は運動部ではあったんですけど、作る意欲はあったので、文化祭があるごとに装飾、会場装飾の班長をやったり、文化祭の実行委員になってずっと作ってました。
大学は法学部とかを目指してたんですけど、親の期待があって美術という視野はなかったんですけど、高3の夏になんか吹っ切れて、美大に行くぞみたいな気持ちになって。そこから2浪して武蔵野美術大学に入りました。そういった経緯です。
高野:絵だけじゃなくて、作るのが好きだったんですか。
阿南:そうですね。図工も大好きでした。すごく大好きです。画材もこだわっていましたが、ずっと同じのを使っていて、割とアクリル絵の具。日本の画材とかも、日本画の岩絵の具とかもいいなとは思うんですけど、慣れ親しんでいるのはアクリル絵の具です。
自分のスタイルが日本画なのかというと、かなり日本的なものをやっていますが、一般的な日本画から見ると日本画ではないです。まず日本画の絵の具を使っていないので。でも、日本画の画材を使っているからといって日本画とはならないし。日本的なことを描いていても日本画にはならないので、かなり日本画という定義は難しいです。
高野:リスペクトは持ちながらやられている感じですね。
阿南:そうですね。その100年、200年後とかに僕らがなくなって、日本がどうなるかわかりませんが、その何百年後でも残るような作品にしたいと思っています。僕が一番好きな作品で、長谷川等伯の松林図屏風というのがあるんですけど、400年前の作品で。
高野:すごいですよね。

阿南:調べると、等伯が50歳の時に息子が亡くなったらしくて。この当時の絵描きは寺とかどこかから依頼があって描く職人だったんです。しかし、この作品は息子が亡くなった悲しみで、人からの依頼ではなく自分自身のために描いたと言われているらしいです。これは確かに結構好きです。
幽玄という言葉も意識していて、奥ゆかしさ、奥ゆかしい趣がある、みたいな。パッと明るくわかるものではなく、良さがわかるものではなく、その奥深さに趣があるという、ちょっと難しい言葉も。普段あんまり使わない言葉。まさにその幽玄を体現しているような作品で。めっちゃ好きなんですけど、こういう感覚っていうのも。ちょっと出たらいいなとも思いつつ。