転機となったFWからボランチへのコンバート

すがや:ありがとうございます。鈴木選手のことについても聞かせてください。僕がこの前見た試合や今日の練習でもボランチの位置に入って、技術の高さでゲームメーカーとしてプレーしていた印象なのですが……元々はFWでしたよね?

鈴木:そうです。この夏まではFWでした。夏ごろまで試合に出られない時期が続いていた時に監督から「ボランチをやってみないか?」というお話をいただき、「挑戦してみよう!」と。

すがや:監督からのコンバート案だったんですね。兵藤監督、これは鈴木選手のどういった部分を見てコンバートを提案したんでしょうか?

兵藤:大翔たちの代は、僕が1年生から見ている代なんです。ずっと見てきた中で、大翔は全体的な能力値が高いっていうところがあったので。

あとは性格ですかね。ストライカーって変なヤツ多いじゃないですか。シュートを10本外しても、1点取ったら俺がヒーローだと思える思考。「ボールが来ないから、俺は点が取れねえんだよ!」っていうくらいの気持ちを持っている選手がストライカーという人種だと個人的に思っています。それで言うと、大翔は優しすぎるんですね。もちろん、優しいって素敵なことなんですけど、ストライカーで生きていくとなると、仇になってしまう部分もある。

正直、早い段階から、FWじゃないポジション(ボランチ含めた)に適性があるんじゃないかってずっと思っていたんですけど、ストライカーとして入ってきているから、(ストライカーとして)どこまで勝負できるのかっていうのは本人もやりたいっていうところがあったんで。

だけど今後、さらに上のカテゴリーを目指すつもりなら、大翔の良さ・強みを最大限活かせるポジションってボランチなんじゃないか? っていうのを相談しました。そうしたら「やります!」という返事だったので、いまはボランチでプレーしてもらっています。

すがや:たしかにコンバート直後であのゲームメイクぶりを見ると、適性をひしひしと感じますね。鈴木選手、ボランチの景色は慣れましたか?

鈴木:8割くらいでしょうか。だいぶ馴染んできていると思います。

すがや:素晴らしいですね!では、自身をどういうプレーヤーだと分析していますか?

鈴木:うーん、そうですね……(考え込む)。

兵藤:ちょっとちょっと! 言語化できないと困るよ! もしかして、俺がいると言いづらい?

鈴木:いえ、そんなことはないです! 言います!

まず、FWからボランチになって成長を感じているのは、守備の部分です。自分のところで奪えるシーンが増えて、ディフェンスが楽しいと感じています。あとは「やるべきことは絶対やる」というのは心がけています。球際は闘う、走るのをさぼらない、足を止めずに周囲を見る……当たり前のところですが、一番の基本で大事な部分だと思っています。

▲考えながらも自身のプレーを分析する鈴木大翔選手

すがや:なるほど。監督の目にはどう映っていますか?

兵藤:謙虚だねぇ。もっと言った方がいいぞ!(笑) FWでも前線からのプレスの際、後ろの状況を見ながらプレスをかけに行っていたので、シチュエーションごとにプレーを変えられる選手です。ボランチの守備はまた違うものですが、こちらが要求したことはすぐにやってくれます。ボールを持った時も、パスのレンジは広いし、基礎技術のレベルが高いので、ボールを簡単に失わない。あと、本人が言っていた球際のところも闘ってくれていますね。

あと足りないのは経験値。どういう風にゲームを作るか、どこでテンポを変えるかなど分かってきたら、さらに成長すると思います。ただ、コンバートして2カ月ということを考えると、素晴らしい出来だと思います。……でも、やっぱり謙虚すぎるかな(笑)。謙虚なのは良いことだけど、たまに自信から過信にちょっと変わるくらいのほうが良いかなって個人的には思うんです。

すがや:僕もちょっと背伸びしてテレビに出てますから。でも、出ちゃえばこっちのものなんで。出さえすれば、失敗しても周りの上手い人たちがどうにかしてくれるんだから。

兵藤:そうですよね! そういうことなんですよ。

鈴木:学ばせていただきます!

理想のキャプテン像は山市秀翔選手

すがや:そんなそんな(笑)。そして新チームのキャプテンになったわけですけども、これまでキャプテン経験は?

鈴木:中学、高校と副キャプテンは務めてきましたが、キャプテン経験はありませんでした。

すがや:では、初のキャプテンはどうですか?

鈴木:ボランチで出始めたのが 9月くらいで、その辺りからチームを引っ張るっていう意識がより強くなって。ただ、まだまだ足りないことばかりなので、引き続き頑張っていきたいです。

すがや:理想のキャプテン像はありますか?

鈴木:ひとつ上の山市秀翔くん(川崎フロンターレ内定)は、ピッチ内では圧倒的な存在感を放ち、ピッチ外では全員とコミュニケーションを取って、たくさんの相談にのっている姿も見てきたので、山市くんのようなピッチ内外で頼られるキャプテンになりたいし、山市くんを越える存在になりたいと思っています。

すがや:頼もしい言葉ですね! チームのことについても教えてください。来季は関東1部リーグで戦うわけですが、まず昇格できた要因は何でしょうか?

鈴木:失点が減ったことでしょうか。これまで、試合の入りや終盤というダメージの大きい時間帯に失点することもあったのですが、かなり減ったと思うので、そこの部分は影響しているかなと思います。チーム全体で意識して、全員がハードワークして守る意思統一ができていました。

すがや:では、1部でもまずは守備でハードワークして戦う形ですね!  これまで対戦したり見てきた中で、一番衝撃を受けた選手は誰ですか?

鈴木:対戦したことはないんですけど、中村草太選手(現サンフレッチェ広島)はプレーを見た時に衝撃を受けました。速くて上手くて点も取れてアシストもできて……すべてを高次元でできる選手だなと。

すがや:この質問、毎回させてもらうんですけど、多くの人が中村選手を挙げます。やっぱりすごい選手なんですね。チームメイトだと誰かいますか?

鈴木:やっぱり山市選手がすごく印象に残っています。僕がこれまで見てきた中で、一番反骨心がある選手です。「絶対に負けない!」という気持ちがプレーに出ていますし、「俺はサッカーで生きていく!」って意志が感じられます。プロの舞台でもその負けん気の強さで頑張っていただきたいですし、活躍してくれると思っています。

すがや:ありがとうございます。ちなみに兵藤さんが衝撃を受けた選手は誰ですか?

兵藤:チームメイトだと平山相太(現仙台大学サッカー部監督)ですね。中学から知っていて、同じ九州選抜でプレーしたんですけど「でかいのにうまいな」っていう。懐が深くて柔らかくて。あとは、家長昭博(現川崎フロンターレ)ですね。ユースとか含めて、試合は直接やったことはないんですけど、U-18からU-20まで世代別代表でずっと一緒だったんです。「体強いし上手いし、年下にとんでもないやつがいるな」っていう。

すがや:すごいお名前が出てきました! 余談ですが、同じ事務所で先輩のお見送り芸人しんいちさんが大阪の北陽高校出身で、対戦した中で一番衝撃を受けたのは、兵藤さんと言っていました。

兵藤:本当ですか。嬉しいですね! 北陽は大阪遠征でよく戦っていましたね。

すがや:このコラムは「大学サッカーを盛り上げること」を目的にやっているんですけど、やっぱり大学サッカーがレベルに対しての注目度が低すぎるなっていうのを感じていまして。選手目線で思うことはありますか?

鈴木:そうですね。やっぱりレベルに対して観客数が少ないなっていうのは感じていて。高校サッカー選手権はあれだけ人が入っているのに、それと比べるとトーナメントの決勝戦でも注目度が低いのかなぁ……と。

早稲田としては1部に昇格しますし、イベント的なものを開催して、少しでも注目してもらえる機会を増やせるように考えています。

兵藤:やはりメディア露出の少なさは感じます。いまの日本サッカーを形作っているのは大卒(J1、J2、J3各カテゴリーの比率が50%以上大卒の選手)のプレーヤーなので、いずれプロになる選手のプレーが見られるのは、大きな魅力のひとつだと思います。

早稲田は大学サッカーの中で歴史が長いので、責任を担うべき大学なのかなと思っていますし、結局、結果を出さないと記事になったり、テレビで取り上げられたりしないんですよね。なので、結果を出して「大学サッカーってこういう魅力があるんだよ」っていうのを発信できる存在になっていきたいです。

すがや:早稲田としては、1部に再挑戦、鈴木選手は初の1部を戦いますが、挑戦するにあたってのモチベーションや目標を教えてください。

鈴木:この間、選抜活動があったのですが、まったく何もできなくて……。でも、だからこそ自分がどれだけ成長できるかだと思いますし、強い相手にぶつかれるのはすごく楽しみです!

チームとしては、やっぱり上を目指すっていうのは話していて、1試合1試合どれだけ勝ちを積み重ねられるかっていうのが大事になると思うので、今年磨いてきた守備の意識は高く保ちつつ、積極的にゴールを狙っていきたいです。

すがや:個人としては、やはりプロサッカー選手が夢ですか?

鈴木:そうですね。兵藤監督がおっしゃられた人間力を磨いた上で、プロサッカー選手になりたいです。

すがや:プロになれるなら、古巣であるガンバ大阪へ、という気持ちはありますか?

鈴木:もちろん、中学、高校と自分を育ててくれたクラブなので、愛着はあります。ただ、まずは早稲田で結果を残さないと何も始まらないと思うので、チーム内の競争を勝ち抜いて、ボランチのレギュラーを獲得したいです!