ジャイアント馬場も認めたふたりの激闘

2度目は83年4月16日、東京体育館。この日、日本テレビの幹部がゴールデンタイム復帰を前提に視察に来ると知らされた馬場が、「全日本の面白さをアピールするには、このカードしかない!」と、急遽組んだもの。これも30分時間切れに終わっている。

だが、3度目の対決からは以前とは完全に別物。全日本ではタブーとされてきた感情剥き出しの日本人選手同士の頂上決戦なのだ。試合は緊迫したムードの中、8分すぎに天龍が左右の張り手からお株を奪うジャンピング・ニーを放ったことで大きく動いた。怒った鶴田が左右の張り手の逆襲から本家ジャンピング・ニーをぶち込むと、さらに右膝のサポーターを外して天龍の額に膝頭を突き刺すようなジャンピング・ニーで、天龍の額を割ったのである。

流血する天龍の額になおもパンチ、キック、ストンピングを乱打し、ブルドッキング・ヘッドロック、ジャンピング・パイルドライバー、お株を奪う延髄斬り、ブレーンバスター、卍固め、コーナー最上段からのダイビング・ニーパット……スケールの大きい鶴田の猛攻が続いた。これをことごとくクリアした天龍のタフさも大したものだ。

12分すぎ、鶴田がバックドロップを狙ったところで天龍が身体を入れ替えてジャーマン・スープレックス! 反撃に出た天龍は延髄斬りからパワーボムを炸裂させたが、これはロープ際でカウント2に。ここで勝負に出た天龍はロープを走ってラリアットに出たが、鶴田はそれをショルダースルーでかわし、天龍を場外に落とした。普通ならここで一息入れるところだが、鶴田はスライディングキックで追撃すると、コーナーポストから場外の天龍めがけてダイビング・ボディアタックを敢行! ジャンボが右腕を掲げて「オーッ!」とファンにアピールしたのは、両者が場外からリングに戻ってジャンピング・ニーを炸裂させたあとの15分経過あたり。この日の鶴田にはまったく遊びはなかった。

15分すぎからは徐々に試合が荒れて、場外での展開に。鶴田がマットを外してフロアでパイルドライバーを仕掛けようとしたが天龍がリバース。それでも鶴田は延髄斬りで天龍を場外フェンスの外に吹っ飛ばす。リングに戻ろうとする鶴田。それを追って再び場外に引きずり下ろした天龍はテレビ放送席に鶴田を叩きつけ、さらにニークラッシャーだ。

今度は天龍がリングの戻ろうとするが、エプロンに上がった時点で鶴田が場外から延髄斬り。こうなると、以前だったら両者リングアウトになるのが濃厚だが……違った。両者エプロンに立った状態で天龍が延髄斬り2連発! 2発目の勢いでリング内に転がり込んだ天龍は、エプロンに棒立ちの鶴田に延髄斬り、さらにロープに走ってラリアットへ。エプロン上のアントニオ猪木がハルク・ホーガンのアックス・ボンバーで吹っ飛ばされて失神した、83年6・2蔵前国技館におけるIWGP決勝戦を彷彿とさせる場面だ。

▲激闘の果てに天龍の執念がわずかに鶴田を上回った

ここで鶴田も必死に左腕を出して、ラリアットの相打ちに。天龍がリングにダウンすれば、鶴田は右足をセカンドロープに引っ掛けたまま宙吊り状態に。和田京平レフェリーはカウント10を数え、判定は天龍のリングアウト勝ちになった。ピンフォール、ギブアップではなかったが、決着がついたのである。内容的には技の種類と攻め手の多さで鶴田が優位だったものの、最後の乱戦の中で天龍の執念が上回ったと言っていい一戦だった。

「俺は今までやられてばっかしだったから、瞬間的な防御が自然に出たんじゃないの? あと、ジャンボはピンフォールを狙ったんだろうけど、俺は今まで何歩か差があったから、並んでからの勝負……ここで自分の手を挙げなきゃ始まらない、リングアウトでもなんでも勝ちたいというのがあったよ。そこのちょっとした差じゃないかな」と勝った天龍。負けた鶴田は、「カウント3を取られないと抜かれたという感じはないね。まだ天龍は格下という感じがあるよ。キャリア10年と15年の差というものがあったと思う」と、プライドを滲ませながらも、「でも天龍の気迫は凄かった。敵ながら天晴れ……素晴らしい相手ですよ」と、天龍をライバルとして認めた。

放送席の馬場は、「ここまで来たら、どっちとも言えないですね。もう、どっちが勝ってもいいんじゃないですか? 出すものは全部出しましたしね。ふたりの気力もよく見えましたしね。本当に両者とも十分力を出し尽くしたんじゃないですかね」と称えた。