大津祐樹と扇原貴宏は仲間を信じた
2019シーズンのリーグ王者を決める大一番、ふたりの中心選手がスタンド席から見守っていた。
大津祐樹と扇原貴宏。異なるキャラクターと役割でチームを盛り立ててきた主力だ。大津祐樹は、前節の川崎フロンターレ戦で左太もも裏を痛めて交代。3週間前の北海道コンサドーレ札幌戦で肋骨を骨折し、以降は痛み止めの薬を飲みながらトレーニングと試合出場を続けてきた。
知らずしらずのうちに患部をかばい、体のバランスが崩れていたのかもしれない。その影響で筋肉系の故障が起きるのは珍しいことではなく、本人に後悔の念はない。
「優勝が現実味を帯びてきたタイミングで負傷してしまったことは本当に悔しい。もちろんショックだった。でも、そこまで胸に引っかかるものはなかった。それまでの長いシーズンでやれることはやってきたし、全員でひとつのチームだから」
ピッチに立ってプレーするのか。スタンドから勝利を祈るのか。
大きく違うように思えるが、大津にとっては大差ない。フォア・ザ・チームを体現する姿勢は最後の最後まで変わらなかった。もうひとりの扇原貴宏は、累積による出場停止でピッチに立てなかった。
喜田拓也や天野純とともにキャプテンの重責を担い、チームを引っ張ってきた。サッカーに対して常に真摯に取り組む姿勢を後輩選手たちが見習い、ひとつの目標に向かって進む集団を作った中心選手だ。
川崎フロンターレ戦で受けた警告は、自身のトラップミスが原因だった。ミスを取り返そうとしたプレーがファウルとなり、イエローカードを提示された。
でも扇原は下を向くことなく、何も変わらずにプレーし続けた。最終戦のことなど微塵も考えずに、目の前の試合を勝つだけだった。
最終戦前の練習も、本当に何も変わらなかった。ランニングは普段通りに列の先頭を走り、戦術練習では控え組だとしても懸命に走り、チームのために身を粉にして働いた。
「ビッグマッチに出られないのは悔しいけど、いままでも自分が出ていない、出られない試合はあった。信頼して任せられる仲間がいるし、信じている」
思い返せば開幕戦もベンチスタートだった。だが扇原は愚痴ひとつこぼさず、日々の練習で精いっぱいを尽くし、そしてチャンスをつかんだ。だから胸を張ってバトンを和田拓也に託す。そして仲間は立ち上がりから最高のプレーを見せてくれた。
朴一圭がファインセーブでピンチを防ぎ、ティーラトンが迷いのないシュートで貴重な先制点を叩き出す。エリキは落ち着いたフィニッシュでスタジアムに笑顔の花を咲かせた。
さらに、ふたりにとって公私ともに弟分のような存在の遠藤渓太が、これまでの鬱憤を晴らすかのようなダメ押し点を決める。退場処分になった朴がロッカーへ引き上げたときも、真っ先に出迎えてくれたのは大津と扇原だった。
「ふたりは負傷や累積で試合に出られない悔しさがある。それなのに自分のミスで退場した自分が落ち込むのは間違っていると思った。一番悔しいはずのふたりが笑顔でみんなを励ましてくれていた。だから自分も胸を張って前を向くと決めた」(朴)
ベンチメンバー全員で肩を組み、大きな声でファン・サポーターと一緒にチャントを歌い、優勝の瞬間を迎える。
ラスト11試合を10勝1分で駆け抜け、15年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた。