逆転負けを喫した清水戦後のロッカールーム

試合後、ロッカールームは誰ひとりとして口を開かなかった。あまりにもショッキングな逆転負けに皆が言葉を失い、その場には重苦しい空気が流れていた。するとひとりの選手が厳しい剣幕でマルコス・ジュニオールに詰め寄っていく。

畠中槙之輔だった。

4連勝をかけて臨んだ第15節の清水エスパルス戦でも、3連勝中同様に先制に成功した。一時は同点に追いつかれたが、後半36分に仲川輝人の勝ち越しゴールで再びリードを奪う。

その直後の出来事だった。マルコスがこの日2枚目の警告を提示され、退場処分になってしまう。

ゲーム再開のために清水側がセンターサークルに戻そうとしたボールは、たまたまマルコスの近くを通り過ぎた。次の瞬間、前半からフラストレーションを溜めていたマルコスがボールを大きく蹴り上げてしまい、これが遅延行為と判定されたのだ。

試合は後半44分とアディショナルタイムに立て続けに失点し、2対3と逆転負け。目前に迫っていた4連勝を逃すだけでなく、精神的なショックも大きい黒星を喫した。畠中は意を決した。ロッカー内の席がちょうど隣だったマルコスに対し、ロッカールームに響き渡る音量で、このときばかりは少々声を荒げてしまった。

「試合に負けた悔しさもあって、それをぶつけてしまった部分はありました。感情的な言葉や表現になったのは反省しています。でも、あの状況で誰も何も言葉を発しないのはおかしいと思いました。チアゴが負傷交代して、急造の布陣で戦わなければいけなかった。それでもようやく勝ち越しに成功した。マルコスの素晴らしいパスのおかげだった。それなのに、あまりにも不必要なプレーで退場処分になって、チームに迷惑をかけてしまったことが残念でならなかった」

畠中はキャプテンでも年長者でもなく、在籍年数も1年弱と浅い。しかし日本代表にも選出されるようになり、中心選手としての自覚が芽生えつつあった。そんな矢先の一件を、黙って見過ごすことはできなかった。

マルコスもまた、興奮冷めやらぬ様子で反論したという。

「シン(畠中槙之輔)と言い合ったのはよく覚えています。自分も熱くなってしまって『2対1の状況になっていたのだから無理にプレスに行かずに守り切ることも大事ではないか?』と強い口調で言い返してしまいました。でも、まず反省すべきは自分の愚かな行為だったと思います」

互いに思いの丈をぶつけ、翌日の練習前にしっかり仲直りした。マルコスから歩み寄り、畠中へ反省の言葉を述べた。わだかまりは残らなかった。

ふたりだけでなく横浜F・マリノスはチームとして教訓を得た。

全試合にフルタイム出場した畠中は日本代表の常連となり、横浜F・マリノスでは押しも押されもせぬディフェンスリーダーに成長した。

そして一時の過ちを犯したマルコス。件の清水戦は、彼がこのシーズンで最後に警告を受けた試合になった。

背番号9は出場停止明けの試合から18試合連続で先発し、シーズントータルで15得点を挙げる大活躍。そして仲川輝人と並んで得点王に輝き、ベストイレブンにも選出された。

支払った授業料は決して高くなかった。